エリンを連れて宿に戻ると、

「「どういうこと!? その女は誰!?」」

 ソフィアとレナに詰め寄られた。

 早朝から女性を引っ掛けてきたように思われたみたいだけど……
 いやいや、そんなことはしないからね?

「二人共、落ち着いて。あと、変な勘違いをしないで」
「私は怪しい者ではありません。私は……」

 エリンが自己紹介をして……

「「……」」

 ソフィアとレナは自分達の早とちりを悟り、落ち着いて、恥ずかしそうに顔を赤くした。

 そうして場が落ち着いたところで、エリンについての深い話をする。
 彼女は特務騎士団に所属していること。
 黎明の同盟と対決姿勢を見せていること。
 そのために協力を求められたこと。

 全部説明したところで、レナが納得顔で頷いた。

「なるほど、お姉さんがあの特務騎士団だったんだ」
「レナは知っているの?」
「かなーり手強い相手で、元部下達も何度も痛い目に遭っているからね。黎明の同盟にとっては、けっこう厄介な相手だったよ」

 すでに小さな争いは起きていたらしい。
 その時のことを思い返しているらしく、レナは苦い顔だ。

「ボクも、まだまだ未熟だった頃、何度か戦ったことがあってねー。いやー、あの時は本気で死ぬかと思ったよ。それくらいやばい相手」

 レナがそこまで言うなんて相当なものだ。

 エリンと特務騎士団。
 頼もしい味方になってくれるだろうか?

「何度か戦った? フェイト殿、そちらの女性はいったい……?」
「えっと……」

 黎明の同盟の元幹部です。
 今は僕達に協力を約束してくれています。

 って言ったら信じてくれるかな……?
 最悪、ここで戦闘が勃発するような……

「彼女は、レナ・サマーフィールド。黎明の同盟の元幹部です」
「ソフィア!?」

 あっさりとバラしてしまい、僕は、ついつい大きな声をあげてしまう。

「こういう大事なことを隠していたら、後で大きな問題になりますよ。下手をしたら共謀していた、騙していた、と勘違いされてしまうかもしれません」
「それは……」
「ならばいっそのこと、どのような事実であれ、最初から打ち明けてしまうのがベストです。それで交渉が決裂するのなら仕方ありません。そして、敵対するというのなら……」

 ソフィアが闘気を放つ。

「特務騎士団であろうと、容赦はしません」
「……ふふ」

 ソフィアの闘気を真正面から浴びているのに、エリンはまるで怯んでいない。
 むしろ、どこか楽しそうにしつつ言う。

「さすが剣聖ですね。アスカルト殿は、とてもまっすぐな方のようです」
「フェイトの方がまっすぐですよ」

 なんで、そこで僕の話になるのだろう?

「ええ、わかっています」
「レナは、まあ、生意気で小憎たらしい泥棒猫ではありますが……」
「なんかボク、ひどいこと言われてる!?」
「フェイトが信じた人です。だから、私も信じます。あなたはどうしますか? エリン・ラグスリート」
「……」

 しばしの間、二人の視線が真正面から激突した。
 火花が散るような迫力はない。
 むしろ静かなもので、とても落ち着いていた。

 だからこそ怖い。
 嵐の前の静けさのように、いつ爆発してもおかしくない気がした。

「「ふふ」」

 ややあって、二人は同時に小さく笑う。

「でしたら、私も彼女を信じなければいけませんね」
「ええ、その通りです」

 なにか通じ合うものがあったのだろうか?
 一気に二人の雰囲気が柔らかくなって、握手も交わしていた。

「なんだろう……?」
「怖い化け物同士、通じ合うものがあったんだねー、うんうん」
「「あなたに言われたくありません」」

 ソフィアとエリンは、同時にレナにツッコミを入れるのだった。