「それは……」

 エリンの口から黎明の同盟の名前が出てきて、ついつい動揺してしまう。

「……どこでその名前を?」
「その前に、まずは私の素性を明かしましょう。とある騎士団に所属していると言いましたが……その騎士団の名前は、王国特務騎士団。普段は表に出ることはなく、秘密裏に国の危機に対処する騎士団です。そして私は、特務騎士団の副隊長を務める者です」
「特務騎士団……ですか」

 そんなものが存在するなんて、まるで知らなかった。
 絵本の中のような話で、ちょっと疑念を持ってしまう。

 そんな僕の考えを察したらしく、エリンはとある紋章を差し出してきた。

「こちらが、私の話を証明するものとなります」
「これは……王家の紋章?」

 エリンが差し出してきた紋章は見たことがある。
 というか、見覚えがあって当たり前だ。
 この国の紋章なのだから。

 これでエリンが詐欺を働いている、という可能性は消えた。
 王家の紋章を利用して詐欺なんて働いたら、問答無用で死刑だ。
 そんなリスクを犯す人はいない。

「特務騎士団は王族の剣となり、その手足として動いています。故に、この紋章を持ち、必要とあれば使うことを許可されているのです」
「なるほど……確かに、本物のようですね」

 偽物を使い、悪人が僕を騙そうとしている可能性も考えたけど……
 でも、見たところ紋章は本物だ。
 偽造できないように色々な仕掛けが施されていると聞いたことがある。

「わかりました。あなたのことを信じます」
「ありがとうございます」

 さて、ここからが本題だ。

「それで……どうして、黎明の同盟のことを?」
「国を転覆させかねない危険なテロ組織が存在する……すなわち、黎明の同盟。その情報は私達も掴んでいたのです」

 黎明の同盟は遥か昔から存在しているけれど、途中で潰されることなく、暗躍を続けている。
 しぶとく頑丈で、そして、尻尾を掴みにくい。

 そんな組織の情報を得ているなんて……
 思っている以上に、特務騎士団はすごい存在なのかもしれない。

「ただ、なかなか情報を得ることができず……また、情報を得たとしても、敵の強大な力が判明するばかりで良い情報を得られず……正直、途方に暮れていました。どう対処していいか、迷うことしかできなかったのです」
「それで……僕のところに?」
「はい。断片的な情報による推測になりますが……スティアート殿達は、今まで、黎明の同盟と何度か戦っているのではないでしょうか? そして、ある程度の情報を得ているのではないでしょうか?」

 大正解です。

「スティアート殿達に接触することが以前から検討されていましたが……幸いというべきか、この王都にやってこられた。ならば、この機会を逃すわけにはいかない」
「それで、僕に声を?」
「はい」

 エリンはまっすぐにこちらを見る。

「黎明の同盟に関する情報が少ないため、なんとも言えないところはあるのですが……しかし、私個人の勘ではありますが、決して放置していい相手ではないと思っております。いえ。それどころか、最優先で対処するべき強敵と思っております」
「勘……ですか」

 でも……うん。
 勘はバカにできない。
 言い換えれば、その人がそれまでに積み重ねてきた経験則から来る、無意識の演算なのだ。
 特務騎士団で活動するエリンなら、間違った答えは導き出さないと思う。

「どうか、協力していただけないでしょうか?」

 即答はできない。
 信頼できる相手なのか、特務騎士団のことをもっと知りたいと思うし……

 もしかしたら、エリンの素性はまったくのデタラメかもしれない。
 紋章もどこかで手に入れたものかもしれない。

 色々と考えないといけないことはある。
 でも……断る理由にはならない、か。

「……わかりました」
「では!」
「ひとまず、仲間のところへ案内します。そこで、もう少し詳しい話をしましょう」

 疑い出したらキリがない。
 それよりは、騙されてもいいから信じたいと思った。

「ありがとう、スティアート殿」
「えっと……フェイトでいいですよ」
「では、私のこともエリンで」

 笑顔で握手を交わす。

「よろしくお願いします、エリンさん」
「こちらこそ、フェイト殿」