「……とまあ、こんなところかな?」

 テーブルの上に王都の地図を広げて、レナがいくつかの場所を指さした。
 黎明の同盟のアジトの場所を教えてもらっているのだけど……

「お、多すぎない……?」
「まさか、十を超えるアジトを持っているなんて……」
「たぶん、これで全部じゃないよ? ボクってそこそこの立場にいたけど、それでも、なんでもかんでも教えてくれたわけじゃないからね。ボクの知らないアジトやセーフティハウスは、他にもっとあると思う」
「それ、最終的にどれくらいになるの?」
「うーん……セーフティハウスも含めたら、五十はいくんじゃないかな?」
「ご……」

 想像を超える数に、もはや言葉を失ってしまう。

「その中で、本拠地はどこなのですか?」
「ごめん、それはわからないや」
「あなたでもわからないのですか?」
「ボク、最近、会合に顔を出していなかったからね……それに、二人と戦った時のこともあって、こいつ裏切るんじゃないか? って思われてそうだから、顔を出しても本拠地は教えてもらえなかったと思う」
「どういうことですか? その口ぶりだと、最初から知らなかったようですが……」
「あ、それね。本拠地って、定期的に場所が変わるんだ。敵に悟られないために、って」
「なんて厄介な……」

 ソフィアが頭を抱えた。
 そんな彼女に気づいたアイシャとスノウが、よしよしとソフィアを慰めていた。
 リコリスは気にすることなく、食事を続けていた。

 ……性格の差がものすごく出ているなあ。

「よし」

 少し考えて、これからどうするかを決めた。

「とりあえず、休もうか」
「え? ですが……」
「焦っても仕方ないよ。これからどうするか、たくさん考えないといけないけど……旅の疲れもあるから、うまく頭が回らないと思うし。まずは、ゆっくり休むことが大事だと思うんだ」
「そう言われると……そうですね、わかりました。アイシャちゃん、スノウ、部屋に行きますよ」
「ちょっと、なんであたしのことを呼ばないのよ!?」

 ソフィアは気持ちを切り替えた様子で、柔らかく言う。

 それから、みんなで二階の部屋に移動して……

「おー、良い部屋だね。広くて綺麗で、お風呂もあり! 窓からの眺めもいいね!」
「……どうして、あなたがここにいるのですか?」

 はしゃぐレナに、ソフィアのジト目が突き刺さる。

「え? だって、ボク、行くところないし」
「それで?」
「それに、協力関係になったじゃない? なら、ここにいてもいいよね♪」
「むう」

 ソフィアは難しい顔だ。
 レナが黎明の同盟の一員だったことを気にしているのだろう。

「まあまあ、ソフィア。レナはもう、黎明の同盟から抜けたんだから……」
「気にしているのはそこではありません」
「え、そうなの?

 なら、どこを気にしているの?

「レナ……あなたは、まだフェイトを狙っているのですか?」
「それって、命を、ってこと? それとも……」
「その反応……やはり、フェイトを性的に狙っていますね!?」
「ごほっ」

 ソフィアがとんでもないことを言い出して、思わず咳き込んでしまう。

 レナは否定することはなくて……

「ふふ♪」

 怪しい笑みを浮かべるだけ。
 それ、肯定しているのと同じだよね……?

「やはり! そういう不埒な輩をこの部屋に置くわけにはいきません!」
「えー、いいじゃんいいじゃん。ベッド、空いてるでしょ?」
「アイシャちゃんとスノウの分です!」
「わたし……パパとママと一緒がいい」
「オフゥ」

 スノウは、むしろ自分は床の方が落ち着く、という感じで鳴いた。

「うぐ」
「ほら、二人はこう言ってるけど?」
「だ、ダメですダメです! フェイトに変なことをするつもりなんて、なんてうらやましい! ではなくて、けしからないです!」

 落ち着いて、ソフィア。
 ちょっと言葉遣いが怪しくなっているから。

「ボク、黎明の同盟はやめるけど、フェイトを諦めるつもりはないんだよねー」
「ついでに、命もやめてはいかがですか?」
「……」
「……」

 バチバチバチ、と二人は睨み合い火花を散らせる。

 怖い怖い怖い。
 アイシャが怯えているから。
 スノウも、尻尾を足の間に挟んで丸くなっているから。

「フェイトはどう思いますか!?」
「ボク、一緒にいてもいいよね?」
「えっと……」

 しまった、こっちに飛び火した!?

「そ、それは、なんていうか……」
「モテるのも大変ねー……あむっ」

 一人、リコリスは他人事で、部屋に持ち込んだドーナツを食べているのだった。