「なんか、大変なことになったね」

 食堂で朝食を食べつつ、そんな感想をこぼす。
 対面に座るソフィアは、スクランブルエッグを綺麗に食べながら、小首を傾げた。

「なんのことですか?」
「シグルド達のこともそうだけど、アイゼンのこととか」

 シグルド達は、先日、裁判が行われて、全員有罪になった。
 一連の事件の主犯格であるシグルドは、死刑。
 ミラとレクターは、シグルドに命令されたということで上場酌量の余地が認められたものの、それでも、労働奴隷堕ち。

 彼らとは、もう二度と会うことはないだろう。

 一方で、アイゼンも憲兵隊に逮捕されることになった。
 一週間ほど前に、突然、大怪我を理由に引退を発表したのだけど……

 その後、憲兵隊の調査が入り、彼の犯した罪が次々と暴かれた。
 そして、そのまま逮捕。
 かなりのことをやらかしていたらしく、未だ調査が行われていて……
 裁判は長引きそうだ。

「どうでもいいことではありませんか」
「ど、どうでも?」
「彼らが犯罪者であることは明白。逮捕されたのは自業自得。今回のことで冒険者ギルドがダメージを受けることになっても、それもまた、自業自得。私達が気にするようなことではありません」
「そうなんだけどね。ただ、これから大変なことになりそうだなあ……って」

 なにしろ、ギルドマスターが逮捕されたんだ。
 国で例えるなら、大臣クラスが逮捕されたようなもの。
 しばらく、冒険者業界は荒れるだろうな。

「しばらくは、ギルドも閉鎖されるみたいだから……はあ。せっかく冒険者になったのに、請けた依頼がまだ二つだけとか。ちょっと悲しい……」
「こうなると予想はしていましたが、まさか、フェイトを落胆させてしまうなんて……くっ、私はなんという失敗を」
「ソフィア?」
「いえ、なんでもありませんよ?」

 なんでもあったような顔をしていたのだけど、気のせいだろうか?

「ただ、空白の期間ができたことは、決して悪いことではありませんよ? フェイトは冒険者になったものの、まだ、色々足りていないものがあるでしょう?」
「そうだね。冒険者としてやっていくだけの能力が足りていないと思うし、知識も……」
「いえいえいえ、それらは十分すぎるほどですよ」
「そうかな?」
「そうですよ」
「うーん……ソフィアがそう言ってくれることはうれしいけど、でも、慢心はしたくないんだ。冒険者初心者というのは本当のことだから、ゼロからしっかりと、一歩一歩前に進んでいきたいかな」
「ものすごく真面目ですね……でも、そんなフェイトも素敵ですよ♪」

 話が逸れた。

「力や知識じゃないとすると、いったい?」
「そうですね……人脈や依頼をうまく達成するためのコツ。機転や応用など、色々なものがありますけど、まずは、やっぱり装備ですね」

 装備と言われて、自分の姿を見る。
 服は頑丈なものを選んでいるため、特に問題はない……ように見えて、ところどころでほつれや破れがある。
 五年、着ているからなあ……さすがに、そろそろ限界かもしれない。

 それと、剣はソフィアに借りた物。
 荷物袋はなし。
 その他、防具はなし。

「フェイトがとても楽しそうにしていたため、二つの依頼は請けることにしましたが……やっぱり、まずは装備を整えた方がよさそうですね。いざという時は、私がなんとかするつもりでしたが、どうも、フェイトは前に前に出る傾向があるので……」
「えっと……ごめん」

 ソフィアの言うことに反論できず、素直に頭を下げた。

 フェンリルを討伐した時も。
 シグルド達を捕まえた時も。

 僕は、ソフィアに任せるということをしないで、自分で解決する方法を選んだ。
 彼女にばかり頼っていたら、この先、冒険者としてやっていけないという思いがあったのだけど……

 でも、まだ初心者なのだから、頼るべきなのだろう。
 一人前になってから、色々とやるべきなのだ。

「ごめんね、心配をかけて」
「まったくです。フェイトがとんでもないことをする度に、私の胃はキリキリとなるのですよ? 反省してください。あと、今度、ねぎらってください。なでなでするとかハグするとか、そういうことをしてください」
「そんなものでいいなら、いつでも」
「聞きましたよ!? 約束です、約束しましたからね!?」
「う、うん」

 ものすごい勢いで食いつかれてしまった。

「えっと……それで、まずは装備を整える、っていう話だったっけ?」
「はい、そうですね。先の依頼で報酬もそれなりに出ましたし、あと、私も手持ちはたくさんあるので、良い装備を買い揃えましょう」
「うん、了解」

 まずは服屋へ赴いて、靴から手袋に至るまで、全ての服を更新した。
 頑丈で動きやすく、品質の良いもの。
 この際、値段は気にしないで、予備を含めて、複数買い揃えた。

 その後、武具店で防具を購入。
 軽鎧からフルアーマープレートまで色々なものがあって、かなり迷ったのだけど……
 ソフィアの助言を元に、腕と胸と脚を守る防具を購入。
 動きやすさを優先することにした。

 最後に剣。

 街で一番という武具店を訪れて、剣を見て回る。

「うーん」
「どうですか?」
「なんていえばいいのか……しっくりと来るものがないんだよね」

 色々な剣を手に取ってみるものの、どれも馴染むことがない。
 これは違う、という感覚を得て……
 なかなか決めることができないでいた。

「ソフィアは、どんな基準で剣を選んでいるの?」
「そうですね……こればかりは言葉にすることが難しく、直感ですね。この剣ならば……という、剣に対する信頼が湧いてくるのです」
「……信頼……」
「剣はその期待に応えてくれて、最初の愛剣は、長い付き合いとなりました。今は、この子を使っていますが……それでも、最初の子は、大事に保管していますよ」
「なるほど」

 やっぱり、自分の感覚を大事にした方がよさそうだ。
 しかし、そうなると困ることに。

 どの剣を見ても、どこか違う、という感覚で……
 しっくりとくるものがない。

「フェイトの身体能力、才能、素質が高すぎるせいで、ここにある剣では役不足なのかもしれませんね」
「そう……なのかな?」
「ひとまず、一番良い剣を三本ほど買っておきましょう。それを一時的な代用品としませんか?」
「了解」

 そんなわけで、三本の剣を購入して店を後にした。

「その三本の剣は、あくまでも代用品です。それでしばらくをしのいで……その間に、本命の剣を見つけましょう」
「でも、どこに良い剣があるのかな? この街、一番の武具店にないとなると、他の街に行くとか?」
「いえ、大丈夫ですよ。街を移動しなくても、私に心当たりがあります」
「え、そうなの? それは、どんな?」
「この近くにダンジョンがあるのですが……そこに、妖精が鍛えたと言われている剣があるんですよ」