「あの時の返事をしにきたんだ」

 それって、最後に会った時に投げかけた、友達になりたいっていう……?

 ついつい緊張してしまう。
 話を知っているソフィアも神妙な顔に。

 そしてレナは……

「あっ、おねーさん。ボク、オレンジジュースで」

 呑気に注文をしていた。

「斬られたいのですか?」
「ボクも喉乾いていたし、こういうところにきたら注文するのがマナーじゃないかな!? だから、笑顔で剣の柄に手を伸ばさないでくれる!? ボク今、魔剣持ってないから、絶対に負けちゃうし!?」

 ソフィアの殺気にあてられて、ものすごく慌てるレナだった。
 っていうか、今……

「魔剣、持っていないの?」
「えっと、あー……うん」

 レナはバツの悪そうな顔をして、小さく頷いた。

「あれ持ってると、ちょっと精神が悪い方に引っ張れるんだよね。ハイになるっていうか、倫理観がズレるっていうか……副作用みたいなものだと思う」

 たまにレナの様子が不安定になる時があったけど、そういう理由があったのか。

「それと……フェイトに言われて、これでいいのかな、って思ったんだ」
「それは、どんなこと?」
「ボクは過去の惨劇の復讐をしないといけない。それこそがボク達、黎明の同盟の望み。先祖の無念を他に誰が晴らす? そう思っていた。うん、それは今も思っているんだけど……ただ、さ。フェイトの言葉がぐさり、って胸に刺さって……」

 復讐のためなら、なにをしても構わないのか?
 惨劇を引き起こした者と同じことをしているのではないか?

 そんな感じの言葉を投げかけた記憶があるけど……
 それは、レナの心に届いていたみたいだ。

「どうしていいかわからなくなって、あの場では退いて……それから、ずっと考えていたんだ」
「答えは出たの?」

 レナは首を横に振る。

「……まだ、わからない」
「そっか」
「でも……フェイト達とはもう戦いたくないかな、って」
「うん、僕もレナとは戦いたくないよ」
「それと……その……あの時言ってくれたこと、覚えている?」
「友達になりたい?」
「そう、それ!」

 レナは満面の笑みを浮かべた。

「フェイトがそう言ってくれて、ボク、嬉しかったんだ! ものすごく、すごくすごくすごく嬉しかったの!」

 ぐいぐいっと迫ってくる。

 嬉しいのはわかったから、やめて。
 ほら、ソフィアが殺気を放っているから。

「だから、その……」

 急にレナの元気、勢いがなくなる。
 迷子の子犬のような目をして、チラチラとこちらを見る。

「ボクを、その……なんていうか、えっと……」

 すがるような目をこちらに向けて、

「と……友達に、なって……くれませんか……?」
「うん、いいよ」
「軽っ!? ボク、一世一代の告白だったのに! 崖から飛び降りる覚悟でお願いしたのに! なんか、ものすごく軽い!?」
「でも……」

 レナの気持ちはわかる。
 ちょっと適当に返事をしすぎたかもしれない。

 でも、彼女のことが嫌いとか、どうでもいいとか、そういう風に考えているわけじゃなくて……

「僕はもう、レナのことは友達だと思っていたから」
「え」
「そうなりたい、って思っていて……そうしたら、なんかもう、僕の中では友達でいいか、って思うようになって……うん、そんな感じ」
「……なにそれ」
「なんだろうね? でも……」

 レナに手を差し出した。

「なら、改めて。僕は、フェイト・スティアート。友達になってくれませんか?」
「っ」

 レナは、一瞬、泣きそうになって……
 でも、涙は我慢する。

「ぼ、ボクは……!」

 ちょっと声が震えていた。
 でも、なにも言わない。
 ただただ、レナの行動を見守る。

「ボクは、レナ・サマーフィールド……ボクの方こそ、友達になってください」

 握手を交わして……
 そして、僕達は『友達』になった。