宿を確保したので、次は情報収集だ。

 ただ、ここは敵地。
 派手に動いたらすぐに見つかってしまうかもしれないので、慎重に動かないといけない。

 なので、まずは定石通り、一階の食堂兼酒場で情報収集をすることにした。

 最近、怪しい人を見かけなかったか?
 おかしな事件は起きていないか?
 どこかで異変が発生していないか?

 情報屋を含めて、色々と話を聞いてみたのだけど……

「収穫なし、ですね……」

 テーブルに戻ったソフィアは、どこか疲れた様子で、あらかじめ注文しておいたドリンクを飲んだ。

「ごめん、僕もめぼしい話は聞くことができなくて……」
「くっ……この天才美少女名探偵マジカルミラクルラッキーハッピースマイルリコリスちゃんが、なにも成果を得られないなんて!」

 リコリスは悔しそうに言うものの、ドーナツをかじっているものだから、あまり悔しそうに見えない。

「あむっ、はむっ」
「オフッ!」

 アイシャとスノウはごはんに夢中になっていた。
 かわいい。

「敵の本拠地となれば、多少の情報は流れているものですが……」
「なにもないね。たぶん、情報統制が徹底されているんだと思う。クリフの話によると、冒険者ギルドにも食い込んでいるみたいだから……」
「そうなると、他の組織にも手が伸びている可能性がありますね。下手をしたら王家まで……」

 下手に手を出してくることはない。
 己の情報を徹底的に秘匿して、表に姿を出さず、隠れてしまう。
 そうすることで、黎明の同盟は強固な防御を得ているのだろう。

 攻撃をしようとしても、敵が見えなければどうしようもない。
 そのことをよく理解しているように思えた。

「困りましたね……ここまで徹底的に存在が隠されていると、情報を掴むのはかなり厳しいです。不可能ではありませんが、相当な時間がかかってしまいます」
「たぶん、あまりのんびりしていられないよね」

 途中、僕達は黎明の同盟による足止めを食らった。
 それはつまり、僕達に王都に来てほしくない、ということ。

 連中がなにか企んでいるようにしか思えない。

「どうにかして情報を手に入れたいんだけど……うーん」
「……その情報だけど、どうにかしてあげようか?」
「えっ」

 ふと、聞き覚えのある第三者の声が割り込んできた。
 慌てて振り返ると……

「やっほー」
「「レナ!?」」

 黎明の同盟の幹部。
 そして、少し前に死闘を繰り広げたレナがそこにいた。

「まさか、あなたが自ら赴いてくるとは……!」
「あーっ!? まったまった、ボク、なにもしないから!?」

 剣を抜こうとするソフィアを見て、レナが慌てた様子で言う。
 よくよく見ると、彼女は帯剣していない。

「……ソフィア、落ち着いて」
「ですが!」
「レナがなにか企んでいる、っていう可能性は高いと思うけど……でも、彼女は剣を持っていない。どこまで本気かわからないけど、なにか話をしたいんだと思う」
「……仕方ありませんね」

 ソフィアは席に座る。

「ただし、妙な真似をしてみなさい。その時は、あなたの髪、全部斬り落とします」
「こわっ!? 腕とか首じゃなくて、髪を狙うところがすっごく怖いんだけど!?」

 レナは本気で怯えている様子で、ビクビクしつつ空いている席に座った。

「それで……いきなり、どうしたの?」
「近くにいたから挨拶に、てへ」
「そうですか、そんなに丸刈りを希望したいですか」
「うそうそうそ!? ごめんなさい!?」

 丸刈りはよほど嫌らしく、レナは涙目になって頭を下げた。
 まあ、女の子なら当たり前に嫌か。

「あー……その、なんていうかね? あんな別れ方をした後だから、なんかこう、気まずくて……どうやって話をしたものかな、って迷って」
「それで、ちょっとおどけてみせた?」
「そう! さすがフェイト、ボクのことをよく理解してくれているね♪」
「フェイトに手を出しても斬りますよ?」
「ちょっとくらい、いいじゃん」

 そこは譲れないらしく、レナは唇を尖らせた。

「それで……どうして、僕達の前に姿を見せたの?」
「それは……」

 レナは真面目な顔を作り、まっすぐにこちらを見て言う。

「あの時の返事をしにきたんだ」