クリフ・ランページ。

 とある街で、冒険者ギルドのマスターを務めている。
 スタンピードが起きるという大事件で共闘することになって……
 その後、ちょくちょくとお世話になった人だ。

「やあ、スティアート君じゃないか。久しぶりだね」
「あ、はい。久しぶりです……えっと」

 突然すぎて、うまく言葉が出てこない。
 ぱくぱくと口を開け締めしてしまう。

 たぶん、僕は今、間の抜けた顔をしているだろう。

「あはは、そんなに驚かないでほしいな。まるで、幽霊に会ったような反応じゃないか」
「その……ごめんなさい」
「気にしないでくれ。それよりも、せっかくの再会だ。時間はあるかな? 少し話でもしないかい?」
「あ、はい。喜んで……って、ちょっと待ってもらえますか? その前に、宿を探しておきたいので」
「もしかして、王都にやってきたばかりなのかい?」
「はい。それで、良い宿の情報はないかな、ってここに」
「なるほど……それなら、僕が良いところを紹介するよ」



――――――――――



「ここが、僕のオススメだよ」
「うわぁ……」

 とある宿に足を運び、僕はついつい声をあげてしまう。

 二階建てのわりと大きな宿だ。
 スタンダートに一階は食堂になっていて、二階が部屋になっている。

 掃除が隅々まで行き届いていて、とても綺麗だ。
 それに、花が飾られているからなのか、ちょっと良い香りがする。

 食堂も部屋も広い。
 それでいて、リーズナブルな料金。

「ここに決めました!」
「はは、気に入ってくれたようでなによりだよ」

 まずは10日で三人部屋を取る。
 幸い空室があって、問題なくチェックインすることができた。

 あとはソフィア達と合流するだけだけど、約束の時間にはけっこう早い。
 あまりにも簡単に宿が見つかったからなあ……

「お茶でもしようか」
「はい」

 なので、クリフの誘いを受けることにした。
 それぞれ紅茶を注文して、席に座る。

「それにしても、本当に久しぶりだねえ。元気にしてたかい?」
「はい。今は別行動していますけど、ソフィアも元気ですよ」
「それはよかった。でも、どうして王都に? 観光かい?」
「えっと……はい、そんなところです」

 黎明の同盟の件は、まだ、誰にも話していない。

 というのも、彼らはありとあらゆるところに潜んでいるからだ。
 レノグレイドでも邪魔をされた。
 冒険者ギルドの内部は王国の内部に潜んでいてもおかしくはない。

 下手に話をしたら、間違いなく邪魔をされてしまうだろう。
 あるいは、罠を仕掛けられてしまうか。

 なので、話す相手は慎重に選ばないと。

「そちらはどうしたんですか?」
「近々、冒険者ギルドのマスターによる会合があってね」
「会合……ですか」
「冒険者ギルドの運営方針などを決めるものでね。年に一度、王都で開催されているんだ」
「なるほど」

 クリフは新しいギルドマスターだから、それに参加するために王都にやってきたのか。

「でも……なんか、憂鬱そうな顔ですね?」
「そうなんだよ、聞いてくれるかい?」
「は、はあ……」
「会合といっても、特にやることはなくてね。僕みたいな新参者は特にそうさ。古参連中がすでに決めていることをなぞるだけで、発言は許されていない。形式だけのもの。そんなもののために時間を使いたくないのだけど……まあ、できるなら、そういうものをなんとかしたいからね」

 クリフも色々と苦労しているみたいだ。

 冒険者ギルドの上層部は、なかなか大変なことになっているみたいだし……
 もしも改善することができたのなら、それはとても良いことだと思う。

 がんばって、と心の中で応援する。

「……」

 ふと、思う。

 黎明の同盟の件、クリフになら話してもいいのでは?
 彼は信頼できる。
 それに、きっと力になってくれるだろう。

 ただ、会合とやらで忙しそうだから、どこまで時間を割いてくれるか。
 あと、クリフは信頼できるけど、彼の周囲にいる人はわからない。

 うーん、どうしよう?