レノグレイドを出発して、王都に向かう旅が始まる。

 王都まで、大体一ヶ月。
 長い旅だけど、アルベルトにもらった馬車のおかげで快適に過ごすことができた。

 そんなある日のこと。

「暑い暑い暑いあーーーつーーーいーーー!!!」

 リコリスがへろへろとした様子で馬車の中を飛びつつ、しかし、声は元気に叫ぶ。
 その声は御者台まで届いていたらしく、ソフィアの声が飛んでくる。

「騒がないでください。余計に暑くなりますよ」
「でもでも、この暑さは我慢できないって。可憐でか弱いリコリスちゃんには、マジきついんですけど」
「確かに、今日は暑いからね……」

 太陽が元気に輝いていて、さんさんと日光が降り注いでいる。

「はふぅ……」
「オフゥ……」

 汗がたくさん流れてしまうような気温に、アイシャとスノウもバテている様子だ。
 それでも寄り添い離れないくらい、二人はとても仲が良い。

「ねえねえ。この馬車、魔法でちょっと凍らせてもいい?」
「今度は、寒いって言う未来しか見えないからやめて」
「うー、この暑さ、我慢できないですけど!」

 リコリスが叫んで、

「ふへらぁ……」

 へろへろと墜落した。
 慌てて手の平で受け止める。

「大丈夫?」
「だいじょばない……干しリコリスちゃんになっちゃいそう、地域の名産になっちゃうわ……」

 訳がわからない。
 これ、本当に危ないかも。

 御者台に通じる道が確保されているので、そちらに顔を出す。

「ソフィア、大丈夫?」
「私は平気ですが……」

 僕の手の上でぐるぐると目を回すリコリスを見て、ソフィアがため息をこぼす。

「そちらはダメっぽいですね」
「どこかで休憩できないかな?」
「そうですね、そうしましょうか。昼、無理に進むよりも、涼しくなる朝や夕方に進むことにしましょう」

 そう言って、ソフィアは地図を取り出した。
 これもアルベルトからもらったもので、かなり詳細な地形が書き込まれている。
 改めて感謝だ。

「この辺りで休憩できそうなところは……あ、近くに湖がありますね」
「湖!」
「うわっ」

 突然、リコリスが跳ね起きた。
 さきほどまでの様子はどこへやら、目をキラキラと輝かせて言う。

「あたし、水浴びしたいわ! 水浴び!!!」
「水浴びですか? でも、その湖が安全なところかどうかは……」
「とりあえず行ってみましょう。それで魔物がいそうなら、フェイトやソフィアがなんとかすればいいじゃない」
「やめる、っていう選択肢はないみたいだね」

 ついつい苦笑してしまう。

「ソフィア、行こうか」
「もう。フェイトはリコリスにも甘いですね」
「あはは」

 笑ってごまかしておいた。

 それから進路を少し変更して、湖方面へ。
 30分ほど進んだところで湖が見えてきた。

「わぁ」

 とても広く綺麗で、湖面がキラキラと輝いていた。
 それだけじゃなくて、よく見てみると湖底も映っている。
 水浴びだけじゃなくて、ここで水の補給もできそうだ。

「魔物の気配は……ないっぽいね」

 奴隷だった頃、見張りを何度もやらされていたため、気配探知には自信がある。

「では、ここで休憩にしましょうか。水の補給もしておきたいですね」
「あたしは水浴びをするわ!」
「そうですね。私達も休憩が必要なので……フェイト」

 ソフィアは少し頬を染めつつ、こちらを見る。

「一緒に水浴びをしませんか?」