数日後。

 アルベルトが馬車を用意してくれたということで、僕達は庭に移動した。

 ちなみに、この数日、彼の屋敷でお世話になっていた。
 なにもかもお世話になって申しわけなかったのだけど、アルベルトとしては、これくらいさせてほしい、とのことだった。

「わぁ……」
「これは……すごいですね」

 馬車を見た僕とソフィアは目を丸くして驚いた。
 アイシャとスノウは興味津々といった様子で、尻尾をぶんぶんと振りつつ馬車を見ている。

 馬車というよりは、小さな家?
 寝室にキッチンにシャワーがついていて、それでいて、色々とコンパクトに収められている。

 馬は二頭。
 どちらも大きくて力強そうで、いくらでも走り続けることができそうだ。

「旅を続けるのなら、これを使ってほしい。宿泊ができて、料理やシャワーを浴びることもできる。それなりに頑丈だから、嵐が来た時の避難所としても使えるよ」
「こんなもの……いいんですか?」
「なに、構わないさ。君達は、このレノグレイドの救世主だからね。むしろ、これくらいの礼で足りるか不安に思っているよ」
「ありがとうございます」

 十分すぎる。
 これなら、王都まで快適に過ごすことができるだろう。

「じゃあ、さっそく食料や水を買いに……」
「それには及ばない。基本的なものは、すでに積み込んでおいたよ」
「え?」

 慌てて中を確認してみると、食料や水、衣服までも用意されていた。

「こんなことまで……え、本当にいいんですか?」
「言っただろう? これくらい、なんてことはないさ」
「ありがとうございます」

 ソフィアがお礼を言うと、アルベルトはニヒルに笑う。

「これで、惚れてくれたりしないかな?」
「フェイトの前に出会っていたら、あるいは」
「やれやれ……結局、私は完膚なきまでに振られてしまったみたいだね」
「えっと……なんか、ごめんなさい」
「いいさ。恋は完璧にいくものではない……だからこそ楽しく、熱中するものだからね」

 アルベルトらしい言葉だった。

「ねえねえ、フェイト。全部揃ってるってことは、もう出発するわけ?」

 リコリスの問いかけに、僕は小さく頷いた。

「うん、そうだね。あまり時間は無駄にできないから」

 レノグレイドの事件に黎明の同盟が関わっていた。
 急いだ方がいいだろう。

 みんな、馬車へ移動して、それぞれの私物を積み込んでいく。
 それと、足りないものも融通してもらい、それらも積み込んでいく。

 そんな中、僕はアルベルトと向き合う。

「あの……」
「うん? どうかしたのかな」
「ありがとうございました」
「それは私の台詞なのだけど……」
「それでも、ありがとうございました。色々なことを学べた気がします」
「ふむ」

 アルベルトはこちらを見て……
 ややあって、苦笑する。

「こうなるのは自然の流れだったのかもしれないね」
「なんのことですか?」
「君とアスカルトさんのことさ。私が立ち入る隙なんて、最初からなくて……二人は二人で完結しているのだろうね。とてもうらやましい関係だ」

 そう言われると嬉しい。

「えっと……お願いがあるんですけど」
「なんだい?」
「また、ここに来てもいいですか?」

 アルベルトは目を大きくして驚いた。
 少しして、優しく笑う。

「ああ、もちろんだ。ただ、とある条件が必須となるな」
「条件?」

 アルベルトは手を差し出してきた。

「私の友になってくれないかな?」
「……」
「どうだろう?」
「喜んで」

 僕は笑い、アルベルトの手を取るのだった。