「……」

 レノグレイドから少し離れたところに人影があった。
 なにをするわけでもなくて、遠く離れた街をじっと見つめている。

 ほどなくして、人影……リケンはため息をこぼす。

「やれやれ、失敗したな」

 グルドに接触して、甘い言葉をささやいて、魔剣を渡した。
 他にも、いくらかの資金援助を行った。

 リケンに……黎明の同盟に、レノグレイドをどうこうしよう、という狙いはない。
 ただ単に、フェイト達の足止めをするために利用しただけだ。

 まだ未熟なところはあるものの、恐ろしい速度で成長し続けるフェイト。
 剣聖という極みに到達して、聖剣を持つソフィア。

 二人は強敵だ。
 黎明の同盟にとって大きな脅威となるだろう。

 だからこそ、足止めをするためにグルドを利用したのだけど……

「ああも簡単にやられてしまうとはな」

 リケンは、もう一度ため息をこぼした。

 グルドに渡したのは、それなりに強力な魔剣だ。
 量産品ではあるものの、その中でも一番質が高いものを選んだ。

 そして、グルドは魔剣に対する適正があった。
 魔剣の力を引き出すことができる。
 100パーセントとは言わないものの、80パーセントくらいは可能だっただろう。

 事実、フェイトと良い勝負をした。
 それを影から見ていたリケンは、もしかしたらこのまま倒してくれるのでは? なんていう期待もした。

 しかし……結果は惨敗だ。
 グルドがフェイトに届くことはなくて、最終的に圧倒された。
 魔剣という証拠も残すことになってしまった。

「……今なら、レナがあの小僧に執着していた理由がわかるな」

 最初は、ただの少女の気まぐれと思った。
 しかし、今は気まぐれで片付けることはできない。

 それほどまでの力。
 それほどまでの成長率。

 あの少年は……恐ろしい。

「もしや、剣聖以上の脅威となるかもしれぬな」

 フェイトは黎明の同盟のことを知っている。
 その素性や目的を把握している。

 規模や隠し持っている切り札などはさすがに知られていないが……
 放置すれば、いずれそれらにたどり着くかもしれない。

 ふむ、と。
 リケンは顎に手をあてて考える。

「ここで潰すことは……さすがに難しいな」

 剣聖がいる。
 妙な妖精もいる。
 巫女と神獣もいる。

 命を賭けたとしても、十中八九、返り討ちに遭うだろう。
 やるならば徹底的に準備をしてからだ。

「……そうだな。一つ、試してみるか」

 しばらく考えて、リケンはとある策を思いついた。

 いっそのこと、フェイトの行動を邪魔しない。
 王都までやってくるのを待つ。

 懐に潜り込まれてしまうものの……
 しかし、王都は黎明の同盟の本拠地がある。
 こちらのホームだ。
 全力で、確実に叩き潰すことができる。

 リスクはあるものの、リターンの方が大きい。
 リケンはそう判断した。

「確か……フェイト・スティアートといったな」

 リケンは口元に笑みを浮かべる。

 その笑みは……

「王都にて待っているぞ。そして……そこが、お前の旅の終着点となろう」

 とても邪悪なものだった。