グルドは倒れた。
 完全に気絶している様子で、立ち上がる気配はゼロだ。

「……ふぅ」

 まさか、魔剣を持っているとは思わなかったから、少し焦った。

 でも、ただ持っているだけで、グルドの剣の腕は大したことはない。
 だから、僕一人でも対処することができた。

 以前は、ソフィアと一緒でないとダメだったけど……
 少しは成長できているのかな?

「大丈夫ですか?」

 アルベルトのところへ駆け寄り、手を差し伸べた。

 グルドはしばらく目を覚まさないと思うから、そのままで問題ないと思う。
 それよりもアルベルトが怪我をしていないか気になる。

「ああ……うん、大丈夫だよ」

 僕の手を取り、アルベルトが立ち上がる。

「打撲くらいはあるだろうけど、骨は折れていないと思う」
「よかった」
「それにしても……」

 アルベルトは、倒れているグルドを見る。

「父があんな力を持っていたことも驚きなのだけど、まさか、一人で倒してしまうなんて……君はすごい剣士なのだね」
「い、いえ。そんな……わりと偶然のようなところが」
「だとしても、それも君の実力だ。君を尊敬するよ」
「あ、ありがとうございます」

 アルベルトは恋のライバル。
 そんなことを言われても、本当なら複雑な気持ちになるかもしれないのに……

 でも、不思議とそんなことはない。
 素直に嬉しいと思うことができた。

「ところで、父が持っていた剣は、なにか特別なものなのかな?」
「えっと……詳細を説明すると長くなるので今は省きますけど、特別なものです。単純にすごい剣っていうだけじゃなくて、持ち主の心をおかしくしてしまいます」
「そうか」
「もしかしたら、圧政を敷いていたのも……」
「いや。だとしても、それは父の責任だ。今更、それを覆すことはできない」

 アルベルトは厳しい顔をして、折れた魔剣を手に取る。

「折れているから、おかしくする力はないと考えていいのかな?」
「大丈夫だと思います」
「よし。ならば、私はこれを持ち、父を倒したことを喧伝してくる。そうすれば暴動も収まるだろう。すぐに応援を回すから、それまでここを頼んでもいいだろうか?」
「わかりました、任せてください」
「ありがとう」

 アルベルトは小さな笑みを見せると、折れた魔剣を手に、街の中心部へ駆けていった。

 その笑みは、どこか寂しそうで、悲しそうで……
 グルドのことを考えていたのかな……なんて思うのだった。



――――――――――



 アルベルトの狙いは正しく、暴動を無事に収めることができた。

 暴動によって大きな被害が出たものの……
 しかし、死人などは出ておらず、最悪の状況は免れることができた。

 アルベルトは、父であるグルドの罪を告白……そして断罪。
 新たに領主となることを宣言した。

 レノグレイドの人々は圧政に苦しみ、新しいヒーローを求めていたのだろう。
 アルベルトは好意的に受け止められた。

 この先、ずっと好意的でいてくれるかどうか、それはわからないのだけど……
 アルベルトのがんばり次第だと思う。
 うまく街を立て直せるかどうかも彼にかかっている。

 これから大変だと思う。
 暴君は追放されたけど、しかし、グルドによって街はボロボロになった。
 立て直すことは難しく、一から作り直した方が、ある意味で早いかもしれない。
 それほどまでに大きな傷を抱えているらしい。

 でも……

 たぶん、うまくやっていけると思う。
 この街の人は強くてたくましい。
 そして、そんな彼らの新しいリーダーは聡明だ。
 アルベルトなら、きっとうまく導いてくれると思う。

 そして……