流星の剣。
 その名を体現するかのように、刃がわずかに輝きを帯びていた。

 なんだろう?
 こんなこと、今まで一度も起きたことがないのに……

「貴様、なにをした!?」

 グルドが激高して襲いかかってきた。
 今までよりも激しく、苛烈な攻撃を繰り出してくる。

 でも……

 不思議だ。
 彼の攻撃を全て見切ることができた。

 この攻撃は当たらない。
 この攻撃は、横に一歩、動けばいい。
 そんな答えが次々に思い浮かんでくる。

 もしかして、剣が力を貸してくれているのかな?
 リコリスの友達の形見。
 それと、アイシャが力を込めて、父さんが魂を込めて打ってくれた剣。
 だから、そういう奇跡のようなこともあるのかもしれない。

「僕は、あなたに負けない」

 改めて流星の剣を構えた。

「力だけが正しいなんて、そんな間違ったことを言える人を……そんな寂しくて悲しいことを言う人になんて、負けてなんかやらない!」
「吠えたな、小僧っ!!!」

 グルドは怯むことなく、むしろ、より苛烈な攻撃を繰り出してきた。
 斬るというよりは叩き潰すという感じで、魔剣を強く振る。

 対する僕は、あくまでも冷静に対応する。
 真正面からぶつかることは避けて、必要最小限の動きで対処。
 攻撃を受け流して、危険を排除する。

 何度も何度も剣が交わるのだけど……
 でも、グルドの剣が僕に届くことはない。

「おのれおのれおのれぇえええええっ!!!」

 グルドは泡を吐くような勢いで激高した。

「この儂にできないことはない、あってはならないのだ! 力を手に入れた。絶対の力を手に入れた以上、全てを従えることができるはずなのだ。それなのい、このようなことは……!!!」
「それは勘違いですよ」

 力で他者を従えることはできる。

 事実、僕も昔は奴隷だった。
 シグルド達にいいようにされてきた。

 でも……

 心は自由にできない。
 体を縛ることはできても、その心は好きにできないんだ。

「力だけじゃダメなんだ」

 前に出た。
 今度はこちらから攻撃を叩き込む。

「ぐっ……!?」
「力だけじゃなくて、心もないとダメなんだ。ましてや、他者を従わせようとするなんて……そんなことをしなくても、きちんとした道を歩いていたのなら、自然とついてきてくれるのに」
「簡単に言うな! なんの苦労も知らない若造が!?」
「あなたこそ簡単に諦めるな! 努力を投げ出したくせに!」

 さらに前に出た。

 前へ。
 前へ。
 前へ。

 流星の剣を振り続けて、ひたすらに攻撃を重ねていく。
 いつしかグルドは防戦一方になる。

「ばかなっ!? この儂が……レノグレイドの領主である、この儂が!?」
「あなたの力は……ハリボテだ」
「っ!?」

 一閃。

 ビシリ、という鈍い音が響いて……
 魔剣が半ばから折れた。

「……あ……」

 グルドがぐらりとよろめいて……
 その隙を逃すことなく、脇腹に剣の刃を叩き込んだ。