歳は五十前後だろうか?

 熊のようにがっしりとした体。
 長く伸びた髭は丁寧に整えられている。

 豪胆という言葉がぴったりと似合う外見なのだけど、でも、顔は綺麗だ。
 鼻は高く、顔の輪郭は柔らか。
 その顔には見覚えがあって、アルベルトとよく似ている。

 ということは、もしかして……

「……父上……」

 アルベルトが苦い表情でつぶやいた。

 やっぱり、この人がアルベルトの父親で……
 レノグレイドの領主、グルド・ヒルディスらしい。

「愚息もいるようだな。そこでなにをしている?」
「見てわかりませんか?」
「念のため、確認をしただけだ。愚かとはいえ、一応、儂の血を引いた息子だからな。弁明の機会くらいは与えてやろうと思ったまでのこと」
「弁明するようなことはなにもありません」
「そうか。ならば……」

 ぶわっと殺気が膨れ上がる。

「死ね」

 グルドの体が何倍にも大きくなったかのような錯覚。
 そんなものを抱くほどの強大なプレッシャーを放ちつつ、突撃してきた。

 速い。
 そして、重い。
 立ちはだかるもの、全てをなぎ倒すかのような突撃だ。

 多少の交渉はできると思っていたらしく、突然のことに、アルベルトは棒立ちだ。
 僕は急いで彼の前に立ち、流星の剣を構える。

「ぐっ!」

 ギィンッ!!!

 刃が交差した。

 なんとか受け止めることができたけど……重い。
 まるで鉄塊を叩きつけられたかのようだ。

 これは、魔剣の力だけじゃない。
 純粋にグルドの戦闘力が高いのだろう。

「なっ……!?」

 突然、始まった戦闘にアルベルトは驚いている。
 でも、驚いているヒマはない。

「剣を!」
「いや、しかし……」
「話し合いはできません。わかるでしょう!?」
「……そうだな、すまない」

 アルベルトは気持ちを切り替えた様子で、横からグルドに斬りかかる。
 速い剣筋。
 そして、正確な攻撃。

 ……だからこそ読みやすい。

「甘いな」
「がっ!?」

 グルドは僕と剣を交わしたまま、蹴りを放つ。
 見事なカウンターとなり、アルベルトが吹き飛んだ。

「くっ!」

 助けに行きたいけど、でも、グルドと剣を交わしたままだ。
 これ以上、他所に注意をやれば、一気にやられてしまう。

「その剣は……」
「うん?」
「その剣は、どこで手に入れたんですか?」
「ほう。その目、その口調。魔剣のことを知っているな」
「それは、とても危ない武器です。手にしたら心がおかしくなってしまう! 早く手放して……」
「承知の上だ」

 グルドはニヤリと笑い、魔剣を握る手に力を込める。

「わかっていて……!?」
「そして……すでに、手遅れでもある」