「ぎゃあああ!? 腕、俺の腕が!?」
「落ち着け! これで止血するんだ!」
「くそっ、なんでこんな……てめえ、何者だ!?」

 突然、空から女性が降ってきた。
 降ってきたかと思えば、目にも留まらぬ速度で仲間の腕を切り飛ばした。

 訳のわからない事態に暴漢達はパニックに陥っていた。
 武器を抜いて怒声を飛ばして、ソフィアを威嚇する。

 ただ、ソフィアは思い切り彼らを無視して、リコリスをポケットに避難させた。

「すみません、遅れました」
「ほ、本当よ! もう少しで、マジでやばいところで……リコリスちゃんがどうにかなったら、世界の損失なんだからね!」
「ごめんなさい」
「うぅ……でも、よかったぁあああああ……」

 よほど怖い思いをしたらしく、リコリスは泣いていた。
 命の危機に晒されたため、さすがにいつものように振る舞うことはできないみたいだ。

「もう大丈夫ですよ」
「ん……ありがと」
「ところで……」
「アイシャとスノウなら、たぶん、大丈夫よ。あたしが囮になって、セーフハウスから引き離したから……あ。でも、他の人間に見つかっていないとも限らないから、急いだ方がいいかも」
「わかりました」
「おい、てめえ!!!」

 二人の会話を遮り、暴漢が怒りに叫ぶ。

「よくも仲間をやってくれたな! てめえも領主の仲間か!?」
「俺達の邪魔をするつもりか!?」
「……」

 ソフィアは、ちらりと暴漢達を見た。

 冷たい瞳。
 絶対零度の視線。
 それを受けて暴漢達はたじろいで、言葉を失う。

「よくもやってくれたな……それ、私のセリフなのですが?」
「な、なんだと……?」
「殺そうとしたのだから、殺されても文句はありませんね?」

 ソフィアは怒っていた。
 心底怒っていた。

 あのリコリスが泣いていたのだ。
 命の危機に怯え、殺されるかもしれないという恐怖に泣いていた。

 いつもとまったく違う姿を見せられて……
 それだけ彼女の恐怖が大きかったことを知って……
 ソフィアは、完全にキレていた。

「なにを訳のわからないことを!」
「邪魔するっていうなら、お前も領主の仲間だ!」
「ここで殺して……え?」

 不意にソフィアの姿が消えた。
 蜃気楼を見ていたかのように、ふっといなくなってしまう。

 なにが起きているか理解できず、暴漢達は困惑する。

「え?」

 再び間の抜けた声がこぼれた。

 それは、暴漢の一人が発したもので……
 彼の左手は、いつの間にか綺麗に切断されていた。

 血が流れ……
 遅れて痛みがやってくる。

「なっ!? あっ、あああああ!?」
「おい、大丈夫か!?」
「い、いったい誰が……」
「私ですよ」

 ソフィアは音もなく暴漢達の背後に回り込んでいた。
 うろたえる暴漢達に冷たい声を浴びせて、その背中に剣を突きつける。

「あなた達が領主の圧政に抗うために立ち上がったということは知っていますが……だからといって、犠牲を厭わない、被害も気にしない、というのはいただけませんね」
「て、てめえ……」
「動かないでくださいね? 間違えて、うっかりと突き刺してしまいそうです」

 ソフィアはにっこりと笑い、言う。
 その笑顔が逆に恐ろしいと、暴漢達は顔を青くして震え上がった。

「本当は殺したいところですが……まあ、完全な悪人というわけでもないので、命は勘弁してあげます。ただ……」
「ひっ」

 剣が軽く暴漢の背中を傷つける。

「引っ込んでいてくれませんか? あなた達は、邪魔でしかないのです」
「そ、そんなこと……」
「聞いていただけないのなら、全員……殺します」

 殺気が放たれた。
 質量を持つほどに鋭く重いもので……
 暴漢達の心はあっさりと折れてしまい、それぞれ、ぺたりと座り込んでしまう。

 それを見たソフィアは剣を鞘に収めて、やれやれとため息をこぼす。

「まったく、その程度の覚悟で……本当に情けないですね」

 リコリスが入っているポケットとは違うところからポーションを取り出して、暴漢達の前に放る。

「それで治療をしてください。でないと、出血死しますよ?」
「た、助かる……」
「まあ、腕は諦めてくださいね? 目的のためならなんでも許されると思い上がっていた、あなた達に対する授業料……ということで」
「……う……」
「では……消えてください」
「「「うあああああっ!?」」」

 ソフィアの声を合図にしたかのように、暴漢達はポーションを拾い、一斉に逃げ出した。
 その背中を見て、

「へへーんっ、この世界遺産的な最かわ美少女リコリスちゃんに手を出そうとするからよ! 一昨日来なさい!!!」
「リコリス……あなた、復活が早すぎませんか?」

 やれやれと、今度は別の意味で呆れるソフィアだった。