「どうやら、思っていたよりも紳士な方みたいですね」

 フェイトとアルベルトを見送り、ソフィアはぽつりと呟いた。

 自分が前線に立たないと言えば、アルベルトは難色を示すだろう。
 フェイトではなくて、自分に協力してほしいと言うだろう。

 そんな予想をしていたソフィアだけど……
 それは外れることに。
 アルベルトは必要以上にソフィアを求めることはなくて、わりとスムーズにフェイトを受け入れた。

 フェイトを信じることにした、というだけではなくて……
 戦争のような状況なので、女性であるソフィアを前線に立たせたくない、という想いが働いたのだろう。

「気を使っていただけるのは、嬉しいですけどね。でも」

 やれやれ、とソフィアはため息をこぼす。

 女性として扱ってもらい、優しくしてくれることは素直に嬉しい。
 でも、それでは不満なのだ。
 男女関係なく、好きな人の力になりたい。
 隣に立ちたい、と思う。

 フェイトは無自覚にそれを理解しているのか、ソフィアを必要以上に縛ることはしない。
 アイシャ達を守る役目も危険だけど、ソフィアなら大丈夫と信じて任せていた。

 そうやって、互いに互いを支え合う。
 それが、ソフィアが求める理想的な関係だ。

「だから、私はフェイトが大好きなのですよ」



――――――――――



 ソフィアは風のように……
 いや。
 それ以上の速度で駆けて、アルベルトが所有するセーフハウスの一つに向かう。

 彼のような立場になると、街に複数の避難場所を持つ。
 そのうちの一つにアイシャ達がいる。

 ソフィアは、大事な家族達の無事を確かめようとして……

「あーもうっ、うっとうしいわね!」

 セーフハウスに近づいたところで、聞き覚えのある声が響いてきた。
 そちらに視線をやると、素早く空を飛ぶリコリスと、それを追いかける暴漢達の姿があった。

「こっちに来るんじゃないわよ!」

 リコリスは高速で飛びつつ、自分を追いかけてくる暴漢に手の平を向ける。

 すると、地面が盛り上がり植物の蔦が飛び出してきた。
 それらは意思を持っているかのように、暴漢達に絡みついて、その動きを封じる。

「ふふん、見たか! これが、絶対無敵万能超越最強完璧美少女妖精、リコリスちゃんの力よ!」

 ドヤ顔を決めるリコリスだけど……

「ふん、これくらいで止められると思うな!」
「甘いんだよ!」
「ぴゃあ!?」

 暴漢達は力任せに拘束を解いて、再びリコリスを追いかける。

「うーっ、あたしは戦闘は得意じゃないの! 補助がメインなのよ!」

 リコリスは、なぜか空へ逃げようとしない。
 暴漢達の手が届くギリギリのところを飛行して、あちらこちらを逃げていた。

 ただ、それも限界だ。
 魔法を連発したことで魔力が少なくなり、体力も減ってきた。
 だんだんと速度が落ちて、暴漢達の手に落ちる。

「ぎゃー!? 離しなさい、離しなさいよ!?」
「うるせえ、黙れ!」
「思い切り邪魔をしてくれたな? この報いはしっかりと……」
「……リコリスになにをしているのですか?」

 ザンッ!

 建物の壁を蹴り急降下したソフィアは、その勢いのまま、リコリスを捕らえる男の腕を切り飛ばした。

 たぶん、彼は革命軍なのだろう。
 街の現状を憂い、立ち上がった勇気ある者なのだろう。

 普段は善良な人なのかもしれないが……
 そんなことはどうでもいい。
 まるで関係ない。

 この男は、リコリスに手を出そうとした。
 ならば敵だ。
 一切容赦することなく、まるで迷うことなく、男の腕を切り落とした。

「大丈夫ですか、リコリス?」
「そ……そびぃわぁあああああ……」

 さすがのリコリスも怖かったらしく、滂沱の涙を流しつつソフィアにしがみつくのだった。