日が変わり、いよいよ作戦決行の日になった。

 僕達は、あらかじめ鉱山に先回りした。
 他にもアルベルトが用意した人達がいる。

 物陰に潜み、領主がやってくるのを待つ。

「いよいよですね。フェイトは緊張していませんか?」
「うん、大丈夫」

 これでも、それなりの修羅場はくぐり抜けてきたつもりだ。
 だからなのか、自分でも驚くくらい落ち着いていた。

「……アイシャとスノウは大丈夫かな?」
「リコリスが一緒なので、問題は……いえ、一緒だからこそ問題なのでしょうか?」
「あはは、ひどいね」

 アイシャ達は、街の宿で待ってもらっている。
 巻き込まれたら大変なので、さすがに一緒に連れて行くわけにはいかない。

 一応、リコリスが護衛についてくれているんだけど……
 うーん、心配だ。

「……あのさ」
「はい、なんですか?」
「甘い、って言われるかもしれないけど……できれば、あまり相手を傷つけたくなくて」

 領主を守る人はたくさんいる。
 お金で雇われていたり、領主に忠誠を誓っていたり。

「悪い人もいるかもしれないけど、でも、今回の敵は同じ人間で……できるなら、あまり……」
「甘いですね」
「うっ」

 バッサリと言われてしまう。

「気持ちはわからないでもないですが、そのような甘い感情を持っていると、いざという時、命取りになりますよ」
「それは……」
「敵は、敵。非情にならなければ、こちらがやられてしまうかもしれません」
「そう……だよね」
「ですが」

 ソフィアがにっこりと笑う。

「私は、そんなフェイトが好きですよ」
「……ソフィア……」
「わかりました。傷つけないというのは無理ですが、なるべく命はとらないようにしましょう。フェイトは、そのために全力を尽くしてください。私がサポートします」

 とても頼もしいけど、でも……

「いいの、かな? 僕は、ソフィアを無理に危険に晒しているかもしれなくて……」
「これくらい、危険なんてことはありませんよ」

 ソフィアはドヤ顔で言う。

「なにしろ、私は剣聖ですからね」
「……」
「それくらい、なにも問題ありません。ちょちょいとやってみせましょう」
「……」
「ど、どうして黙ってしまうのですか?」
「ううん、なんでもないよ……うん。ありがとう、ソフィア」

 僕のパートナーは、とても頼りになる。
 そして、とても優しい人だ。
 なんだかんだ言って、ソフィアも僕と同じ気持ちでいてくれているんだと思う。

「がんばろうね」
「はい」

 よし、気合が入ってきた。

 入ってきたんだけど……

「合図、遅いね?」

 時計で時間を確認する。

 領主が鉱山にやってきたら、アルベルトが合図を送ってくれるはずなんだけど……
 その合図が一向にない。
 予定時間を過ぎているのに。

「トラブルでしょうか?」
「そうやって言葉にすると、本当にそうなりそうな気が……」
「大変です!」

 若い男性がこちらに駆けてきた。
 アルベルトの執事の一人で、連絡係を務めている人だ。

 汗をたくさん流すような勢いで、ものすごく慌てている。

「どうしたんですか?」
「それが、その……! アルベルトさまとは別の者がクーデターを起こしてしまい、街が戦場に……!!!」

 ……とんでもないトラブルが起きていた。