「まずは、感謝を述べさせてもらいたい」

 翌日。
 僕達はアルベルトに呼ばれて、大きい客間に集まった。

「ソフィア・アスカルト殿。フェイト・スティアート殿。リコリス殿。アイシャ殿。スノウ殿。私の無茶な要請に応えていただき、深く感謝したい。ありがとう」

 アルベルトは一人一人の顔をしっかりと見て、最後に頭を下げた。

 貴族は民の上に立つ者だ。
 そうそう簡単に頭を下げてはいけないし……
 プライドが高く、そんなことができない者も多い。

 でも、アルベルトは違う。
 彼は真摯に僕達に向き合ってくれている。

 ……なんか、彼に嫉妬していた自分がひどく小さな存在に思えてきた。

「現在、この街は父の……いや、グルド・ヒルディスの圧政で悲鳴をあげている。民は苦しみ、財は溶けて、人々は他の街へ逃げている。このような状況を放置したら、どれだけの涙が流れることか……それを止めるため、あえて、私は罪を犯そうと思う」

 革命とか、救世とか。
 そんな良い言葉を使わないで、あえて悪い言葉を使う。
 そこにアルベルトの性格が現れているような気がした。

 それに比べたら僕は……

 って、ダメだダメだ!
 色々と思うところはあるけど、でも今は、目の前のことに集中しないと。
 協力するって決めたんだから、迷惑をかけないようにがんばろう。

 やるべきことはやる。

「それ、具体的にどうするのです?」

 ソフィアがそんな質問を投げかけた。

 アルベルトは、前々から今回の計画を考えていたみたいだ。
 でも、詳細を知らされていない僕達は、自分の役割を知らない。

「グルドが悪事に手を染めていることは間違いない。その証拠を掴むことができれば、領主の座を蹴落とすことも可能だろうが……それはしない」
「時間がかかるから、ですね?」
「ああ、その通りだ」

 まっとうな手段を取れば、必ず領主を追い落とすことはできる。
 それだけの悪事を積み重ねている、と聞く。

 ただ、それでは遅い。
 どうしても時間がかかってしまうから、その間に、どれだけの人が苦しむか……

 それを許せないからこそ、アルベルトは簒奪という最終手段に出ることにした。

「取るべき方法は一つ。そして、とても単純なもの……クーデターだよ」
「……」

 とても物騒な話に、自然とこちらの気持ちが引き締まる。

 ちなみに、アイシャとスノウには聞かせられない話なので、最初の挨拶を終えた後、二人は部屋の後ろでリコリスと遊んでもらっている。

「物理的にグルドを拘束して、私が領主の座につく。その後、不正の証拠を見つけることで、国に正当性を主張する」
「それ……けっこう、危うい作戦では?」

 物理的に領主を排除するなら、なんとかなると思う。
 ソフィアがいるから、こちらの戦力は十分だ。
 もちろん、僕も全力で戦う。

 ただ……

 その後の正当性を主張する、というのはうまくいくのかな?
 下手をしたら、簒奪を正当化するため証拠をでっちあげた、と判断されるかもしれない。
 あるいは、不正の証拠を見つける前に国が動いてしまうとか……こちらは、色々な不安要素があって、それを完全に拭い取ることができていない。

「うむ、スティアート殿の言いたいことはよくわかる」
「なら……」

 もっと慎重に作戦を考えた方がいいのでは?
 そう言うよりも先に、アルベルトが言葉を続ける。

「私が領主の座につけなかったら、その時はその時だ」
「え?」
「一番の目的は、グルドを領主の座から排除することだ。そうすれば、レノグレイドの状況は大きく改善される。もちろん、私が領主となって正しい方向へ導いていきたいが……それが叶わなくても、グルドを排斥できれば、まずはそれでいい。結果、私が反逆者として処罰されようが構わない」
「……」

 僕は、アルベルトのことを小さく考えていたのかもしれない。

 街のために自分が犠牲になって構わない。
 そうすることが務め。

 まさか、ここまで強い決意と覚悟を持っていたなんて……

 いつの間にか、アルベルトに対する嫉妬は消えていた。
 代わりに、憧れに近い感情が生まれる。

 彼のように……
 強い決意と覚悟を持つ、そんな人になりたい。
 そうやって強く大きく成長したい。

 そう思うようになっていた。

「わかりました」
「フェイト?」
「僕は、ソフィアみたいな力はないけど……でも、全力であなたのサポートをしたいと思います」
「ありがとう。スティアート殿を頼もしく思うよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。アルベルトさん」

 アルベルトさんが手を差し出して……
 僕は笑みを浮かべつつ、その手を握る。

「……」
「……」

 言葉は必要ない。
 そんな感じで、しっかりと握手をした。

「む? なにやら私の知らないところで二人の仲が……なんだか、ジェラシーですね」

 一人、ソフィアが妙な方向で拗ねてしまうのだった。