領主の屋敷を出たリコリスは、ふわふわと街の上を飛んでいた。

 妖精は希少種だ。
 フェイトとソフィアがいない状態で人前に出たら、捕まってしまうかもしれない。

 それくらいの危険を考える頭も、リコリスには一応あった。

「さーて、領主の情報、どこかに落ちてないかしら?」

 いちいち聞き込みなんてしていられない。
 そんなことをしても、正解の情報を持つ人にたどり着くのに、どれだけの時間がかかることか。

 それよりは人々の話を盗み聞きした方が早い。
 領主に関する噂を収集できるし……
 それだけじゃなくて、こっそりと真実を話している者もいるかもしれない。

 そういう時もあるため、わりと有効な手だ。

「ふふん、リコリスちゃんイヤーは、どんな会話も聞き取るのよ!」

 一人なのに、リコリスはドヤ顔を決める。
 調子に乗らないと生きていけない種族なのかもしれない。

「んー……」

 魔法で聴覚を増幅。
 さらに、必要な情報と不要な情報を選別。

 そうして、街の上空で人々の会話を盗み聞きして……

「カーッ! カーッ!」
「ぴゃあ!? び、びっくりさせるんじゃないわよ!?」

 カラスに襲われて、リコリスは慌てて魔法を使って追い払った。
 餌と勘違いされたのだろう。

「まったく、失礼なカラスね。こんなにかわいいリコリスちゃんを見て、餌と勘違いするなんて。ううん。もしかしたら、妻にしようと思ったのかしら? 異種族も魅了するあたし……ふっ、罪な女ね」

 ツッコミ役が不在のため、誰もリコリスを止められない。

「さてと、続き続き、っと」

 リコリスは再び盗み聞きを始めた。

 今日の天気。
 子供がなかなか言うことを聞いてくれない。
 景気が悪く、儲けることが難しい。

 色々な会話が聞こえてくるものの、領主に関する情報は乏しい。

「んー、もうちょっと確定的な情報がほしいわね。もっと選別しないとダメね」

 リコリスは、追加で魔法を発動させた。
 望む会話だけを届けて、他は切り捨てるという条件を追加したものだ。

 そんな魔法、妖精であっても普通は使えないのだけど……
 リコリスは特別だった。

 実のところ、彼女はかなり優秀だ。
 魔法に関していえば、世界でトップクラスの腕を持つ。

 ……日頃の言動で、威厳などは皆無になってしまっているが。

「おっ、これなんてよさそうね」

 とある会話が聞こえてきて、リコリスは機嫌良さそうな顔に。

 詳細な場所はわからないが、街の北部……
 住宅街から聞こえてきた。

 複数の人の声。
 なにやら議論をしているらしいが、ヒートアップしているらしく、その声量は大きい。

 手遅れになる前に……
 このままでは街の経済は崩壊してしまう……
 あの人は自分のことしか考えていない……
 最悪、武装蜂起も視野に入れて今後の活動を……

「ふんふん……なにやら、面白そうなことを話しているじゃない」

 リコリスはニヤリと笑い、北の住宅街に飛んでいった。