「まずは、礼を言わせてほしい。護衛を引き受けてくれて、ありがとう」

 アルベルトが小さく頭を下げる。

 領主の息子という立場なのに、一介の冒険者に頭を下げるなんて……
 なかなかできることじゃない。

 それに、顔も整っていて。
 背も高くて。

「……」

 この人と競ったら、僕は勝てるのだろうか?
 実力じゃなくて、男としての魅力が勝っているのだろうか?

 ついつい、そんなことを考えてしまう。

 それに気づいてか気づいていないのか、アルベルトは話を進める。

「どうぞ、私のことはアルベルトとお呼びください」
「では、私達のことも名前でどうぞ」
「わかりました、ソフィアさん、フェイトくん。アイシャちゃん、スノウくん」

 気さくな人だ。
 性格も良い。

 そうなると、この人がライバルになったら……
 って、ダメだダメだ。
 なにか真面目な話があるみたいだから、今は、そっちに集中しないと!

「剣聖であるソフィアさんは、さすがの腕でした。それだけじゃなくて、フェイトくんも素晴らしい力を持っている。二つ名や称号を持っていないのが不思議なくらいだ」
「あ、えっと……冒険者になって、まだ日が浅いので」
「なんと。それなのに、あれほどの実力を……才能があるんだね」
「あ、ありがとうございます」

 アルベルトはソフィアだけに話をするのではなくて、僕にも声をかけてくれる。
 というか、友達のような感覚で親しく話をしてくれる。

 本当、良い人だ。

「……そんな二人を見込んで、お願いしたいことがあるのです」

 アルベルトは軽く手を振り、メイドさんを部屋の外に下がらせた。
 他の人には聞かせられない内容、っていうことか。

「あの、アイシャとスノウは……」
「もちろん、二人のことも信頼しているよ」

 とてもありがたい言葉だった。

「それは、依頼っていうことですか?」
「ああ、その通りだよ」
「どうして僕達に?」
「二人は腕が立つだけではなくて、信頼できるように思えた」
「出会ったばかりなのに?」
「一応、私は人を見る目があるつもりなのさ」

 ひとまず話を聞いてみよう。
 そう判断して、続きを促す。

「これからする話は、絶対に内密にしてほしい。ソフィアさんとフェイトくんだからこそ、話をする。依頼を請ける請けないは、後で判断してもらって構わないけれど、他言無用ということだけは、今ここで誓ってもらいたい」
「わかりました、絶対に話しません」
「ええ。女神に誓います」
「ありがとう」

 そう言って笑うものの……
 アルベルトは、すぐに笑みを消して、重い表情になってしまう。

 彼をこんなにさせてしまうなんて……
 いったい、どんな依頼なのだろう?

 緊張して、でも、ちょっとだけわくわくした。
 冒険者の生活に、すっかり馴染んだ、っていうことなのかな?

「依頼というのは……この街、レノグレイドの領主である父を追い落とす手伝いをしてもらいたい」