アクアレイトの北には広大な森が広がり……
 それを抜けたところには、山が連なっていた。

 その麓に広がる街が、レノグレイドだ。

 アリの巣のように鉱道が伸びていて……
 そこからとれる色々な鉱石が主な産業だ。

 それ故、鉱山都市とも呼ばれているらしい。

 僕達が助けた人は、アルベルト・ヒルディス。
 レノグレイドの領主の息子だった。

 ちょっとした用事でアクアレイトに出かけていたらしいけど……
 その帰り道、魔物に襲われてしまったらしい。
 そこに僕達が通りかかり……という状況だ。

「おー」

 護衛は無事に終わり、僕達は、そのまま屋敷に案内された。
 広いだけじゃなくて綺麗な調度品が並ぶ屋敷内を見て、アイシャが目をキラキラさせた。

 巫女とか姫様とか言われているけど、やっぱり子供。
 こういうところは好きなんだろうな。

「どうぞ、こちらへ」

 メイドさんに案内されて、客間へ。

「こちらでお待ちください。なにかあれば、遠慮なく申しつけください」

 そう言って、メイドさんは部屋の端に待機した。

 ちなみにアルベルトは、最初に、領主である父親に報告しなければいけないと、今はこの場にいない。

 本当は僕達とすぐに話をしたいのだけど……と、言っていた。
 その態度に嘘はないように見えて、彼の人柄が表れているみたいだ。

 ……だからこそ、余計にソフィアの手の甲にキスをしたのがもやっとする。

「どうしたのですか、フェイト」
「え?」
「なにやら怒っているみたいですけど……」
「そ、そんなことはないよ」

 感情が表に出ないように、表情はきちんとコントロールしていたはずだ。

 でも、そんな僕を見てソフィアが優しく笑う。

「確かに、いつもと変わらない顔ですけど……でも、私にはわかります。どれだけ隠そうとしていても、フェイトの心はわかりますよ」
「……ソフィア……」
「どうしたんですか?」

 優しい声で言われると、隠し続けることはできなかった。

「その……さっき、手の甲にキスをされたよね?」
「あ」
「それで、えっと……なんていうか、こう……もやもや、っと」
「……っ!」

 ソフィアは、なぜかぷるぷると震えて、

「あーもうっ、フェイトはかわいいですね!!!」
「うわ!?」

 思い切り抱きしめられてしまう。

「嫉妬ですか!? 嫉妬ですね!? もう、そんなことをするなんて、フェイトったら。そんなフェイトもたまらなくかわいくて、抱きしめてしまいたくなります」
「もう抱きしめているよ……」
「かわいすぎるフェイトが悪いんですよ?」

 僕のせいなの……?

「でも……安心してください」

 ソフィアの力が緩んで、さきほどまでと同じような穏やかな声で言う。

「私の心の中にいるのは、フェイトだけですよ。好きというカテゴリーなら、たくさんの人がいますけど……異性として愛しているのは、フェイトだけです。この部屋は、あなただけのものです」
「そ、ソフィア……」
「だから、大丈夫です」
「……うん」

 嬉しくて。
 温かい気持ちになって。
 反射的にソフィアに手を伸ばして……

「あんたら、領主の屋敷でまでイチャつくとか、すごい根性ね」
「「っ!?」」

 リコリスの言葉で我に返り、僕とソフィアは同時にびくんと震えて、離れた。

 あ、危なかった……
 リコリスの言う通り、こんなところでこんなことをしたらダメだ。

「またせた」

 絶好のタイミングなのか、それとも最悪のタイミングなのか。
 扉が開いて、アルベルトさんが現れるのだった。

「こちらから招いておいて、待たせてしまうなんて申しわけない。なるべく早く用事を片付けたのだが……うん? 二人共、顔が赤いがどうかしたのかな?」
「「な、なんでも!!」」

 そうやって、慌てて首を横に振る僕とソフィアだった。