翌朝。

 水神がいなくなったことで、綺麗な青空が一面に広がっていた。
 温かい陽の光が降り注いで、街全体が輝いている。

 うん。
 これなら川を渡る船も出ているだろう。

「よかった、街が元通りになって。これで旅を再開できるよ」
「っていうか」

 リコリスが口を開く。

「あたしらなら、嵐の中でも、どうにかして川を超えることができたんじゃない? 無理して水神を倒すことなかったんじゃない?」
「それは……」

 リコリスの言うことは、たぶん、正しいと思う。

 風の足場なんてものを作れるから……
 僕やソフィアがアイシャとスノウを抱えれば、あの荒れ狂う川も超えられたはずだ。

 はずだけど……

「でも、嫌なんだ」
「なにがよ?」
「困っている人がいるのに、それを見なかったことにするのは……嫌なんだ」

 助けることができるのなら、助けたい。
 助けられないとしても、自分にできることを探したい。
 そう思うのは、わがままだろうか?

「フェイトは、それでいいと思いますよ」

 振り返ると、ソフィアが優しい顔をしていた。

「フェイトは優しいところが魅力的で……それと、それが力にもなっていると思うんです。誰かのために……そう願うことで、力が湧いてきていると思うんです」
「そう、かな?」
「そうですよ。誰かのために動き時こそ、フェイトは、一番の力を発揮していましたから」

 ちょっと照れくさいけど……
 そう言ってもらえると嬉しい。

「まったく、仕方ないわねー。反対はしないけど、それに突き合わされるあたしの身にもなってほしいわ」
「リコリス……つんでれ?」
「オフゥ」
「なんでそうなるのよ!? ってか、アイシャにそんな言葉教えたの、どっち!?」
「え? いや、僕はそんなことは……」
「私も、そんな言葉を教えたことはないのですが……」

 僕とソフィアは、揃って首を傾げた。

 たぶん……
 宿に泊まっていた時、他の客の話を聞いて覚えたんだろう。

 子供って不思議だ。
 親の知らないところで、どんどん成長する。

 これから先、どんな風に成長していくんだろう?
 どんなことを覚えていくんだろう?

 それを知りたい。
 知りたいからこそ、彼女を狙う黎明の同盟をなんとかしないといけない。

 それと……
 誰かが涙を流すのを止めたいから、っていう理由もある。

 感謝されなくていい。
 自己満足でもいい。

 ただ、そうしたいと願うから、そうするだけだ。

「……もし」

 声をかけられて振り返ると、宿にいたおじいさん……ヘミングさんが。

「……ありがとう」
「え?」
「あんた達に水神様の話をして……それから、ピタリと嵐が収まった。詳しいところはわからぬが、なんとかしてくれたのじゃろう?」
「えっと、それは……」
「なにも言わなくてもよい。ただ、お礼を言っておきたかったのじゃ。本当に……ありがとう」
「……はい」

 僕が戦うことで、こうして、誰かの涙を止めることができる。
 なら、戦うだけだ。

「お主ら、北へ向かうのか?」
「はい。王都を目指しているんです」
「なら、これを持っていくがよい」

 手の平サイズのカードを渡された。

「王都は警備が厳しいから、入るのも一苦労じゃ。ただ、この通行証があれば、問題なく入れるじゃろう」
「ありがとうございます」
「せめてもの礼じゃ。ではな」

 ヘミングさんはにこりと笑い、立ち去っていった。

 それから、ソフィアがリコリスに、ニヤリと笑う。

「人助けをすることで、こうして得られることもあるんですよ?」
「むぐ」
「まあ、フェイトの場合、対価を求めてのことではありませんが……でも、そういうところが大好きです」
「あ、ありがとう。僕も、ソフィアのことが……」
「はいはい、隙あればイチャつこうとするんじゃないの。ほら、とっとと行くわよ」

 リコリスに促されて、船着き場へ向かう。

 こうして僕達は、色々とあったアクアレイトを後にして……
 王都に向けて、さらに旅を続けるのだった。