「胴体をちまちまと攻撃してもダメ。あいつの弱点は頭よ!」

 リコリスは断定するような口調で、そう言った。

 やけに自信たっぷりだ。
 どこで、そんな知識を仕入れたのだろう?

「なんでそんなことを知っているの?」
「ふっふっふ、このリコリスちゃんに不可能はないわ!」

 答えになっていないからね?

「ってか、大抵の生き物は、頭を潰されれば死ぬでしょ。あいつも例外じゃないわよ、たぶん」
「それはまあ、そうだけど……」

 深い知識を持っているだけじゃなくて、ごくごく当たり前の話をしているだけだった。

 すごいかも、と一瞬でも感心した僕がバカだったかもしれない。

「でも、さすがに攻撃が届かないよ」
「大丈夫。あたしが足場を作るわ」
「足場?」
「説明している時間がもったいないから、臨機応変よ! 即興で合わせて!」
「無茶を言うね!」

 でも……

 リコリスは無茶を言うことは多々あるけど、無謀を口にすることはない。
 僕ならできる、と信じてくれているからこその発言だ。

 なら、それに応えてみせないと!

「いくわよ!」
「いつでも!」
「んー……えいっ!」

 リコリスの掛け声と共に、風を圧縮して作られた、空気の板が宙に並べられた。
 それらは螺旋階段のように上に伸びて、水神の頭部へ繋がる道を作る。

「このっ!」

 風の板を足場にして、跳躍。
 さらに跳躍。
 再び跳躍。

 何度も何度も跳んで、空を駆け上がっていく。

「こざかしイ!」

 水神がぐるっと回転して、風の板を吹き飛ばす。
 でも、慌てる必要はない。

「ふふーん、これくらい、天才美少女魔法少女リコリスちゃんには、なんの障害にならないわね!」

 すぐに新しい風の板が作り出された。

 少女って、二度言っているからね?
 心の中で律儀にツッコミを入れつつ、さらに駆け上がる。

「ぐっ……我に近づくナ!」

 怒り……そして、焦る水神は、再び体をくねらせて風の板を破壊した。
 ついでに僕も吹き飛ばそうとするけど……

 そんな攻撃に当たってなんかやらない。
 ソフィアの方が万倍も速い。

 問題なく避けて……
 そして、間髪入れず生み出された風の板を踏み込んでいく。

 水神の頭部まであと少し!

「人間などニ……ふざけるナ!!!」
「っ!?」

 怒りの咆哮を響かせた水神は、上体を反り返らせた。
 力を溜めている様子で体を震わせて……

「ガアアアアアァッ!!!」

 二度目の咆哮と共に、口から水を吐き出してきた。

 大量の水を極限まで圧縮しているらしく、その威力に大気が震える。
 キィイイインと耳鳴りがする。

 極大の破壊力を持つ水撃が僕とリコリスに迫り……

「リコリス!」
「あ、うん!?」

 とあるお願いをして。

 ……その直後、水撃が襲いかかってきた。