レクターの対処をさせられてしまい、シグルドは逃げる時間を得た。
彼はアタッカーなので、体力は十分にあるだろう。
すでに街を抜け出している、という可能性もある。
ただ、僕はもう一つの可能性を考えていた。
シグルドは非常にプライドが高い。
病的と言ってもいい。
そんな彼が、やられっぱなしで黙っていられるだろうか?
ソフィアが一緒にいたら、さすがに手を出してくることはないだろうけど……
僕一人なら?
奴隷、無能と侮る僕だけならば?
その予想は……的中する。
魔物や獣の侵入を防ぐため、街は、ぐるりと壁に囲まれている。
出入り口は、東西南北の四つ。
ただ、大災害が起きた時などに備えて、普段は使われていない非常口が存在する。
そこに移動すると……
「おらぁっ!!!」
「っ!」
物陰からシグルドが飛び出してきて、問答無用で斬りかかってきた。
巨大な大剣を叩きつけるようにして、僕を両断しようとする。
ただ、それは読んでいた。
「ふっ!」
「なぁ!?」
下からすくいあげるようにして剣を跳ね上げる。
刃がシグルドの剣の腹を叩く。
ギィイイインッ!!!
ガラスをまとめて数十枚叩き割るような音。
シグルドの剣が半ばから折れた。
一方、僕の剣は無事。
頑丈と聞いていたけど、これほどとは。
改めて、この剣を貸してくれたソフィアに感謝だ。
「くそっ、バカな……なんで、てめえが俺の攻撃を防いでいるんだよ? ありえねえだろ。無能のくせに、なんでなんでなんで……!!!」
「僕は、模擬戦でシグルドに勝ったはずだけど?」
落ち着いて、そう言うことができた。
以前は、彼に対する恐怖があった。
ただ、それはシグルドの実力を恐れていたわけじゃない。
長年の奴隷生活で酷い扱いを受けていたから、逆らうことが難しく、体に恐怖が染みついてしまっていたのだ。
でも、今は違う。
その恐怖と苦痛は、ソフィアの温かい心が癒やしてくれた。
僕に自信をつけてくれた。
もう、こんなヤツは怖くない!
「おとなしく投降するつもりは……ないみたいだね」
シグルドは獣のような目をしていた。
ここで終わるなんてことはありえない、絶対に諦めてたまるものか、まだまだ上に上り詰める。
……そんなことを考えているように見えた。
「もうすぐソフィアも駆けつけてくるよ。いい加減、諦めない? なにを思って、こんなバカなことをしたのか、いまいちわからないけど……シグルド達は、もう冒険者に戻ることはできない。おとなしく罪を償うんだ」
「罪ぃ……? ははっ、この俺に罪があるだと? ……ふざけるなっ!!!」
突然、シグルドが激高した。
「俺は、Aランクパーティー『フレアバード』のリーダーだ! 誰もが一目置く、一流冒険者だ! そんな俺に罪がある? そんなわけないだろうっ!!! ふざけたことを言うな! 俺が悪いわけねえ、全部全部全部、てめえのせいだろうが! てめえが、てめえが俺達に歯向かうから、生意気なことをするから、だからっ!!!」
シグルドに対する恐怖は克服したはずなのだけど、それでも、一瞬、気圧されてしまう。
それほどまでに、彼が抱える想いは歪んでいた。
ここまでなんて……
唖然とするものの、すぐに我に返った僕は剣を構え直した。
もう言葉では止まらない。
実力行使あるのみだ。
そして……今度こそ、僕は過去に決着をつける。
「……俺に勝てるつもりか?」
「つもりとか、そういうのはどうでもいいんだ。勝つ。それだけだよ」
「くそっ、まだ生意気なことを……いいぜ! ここで、グチャグチャに叩き潰してやるよぉおおおおお!!!」
シグルドは小瓶を取り出して、ドロリと粘度の高い液体を飲み干した。
「それは……?」
「ぐううう……はっ、ははは! コイツは、力を何倍にも引き上げる薬だよ。俺の切り札さ。まあ、理性が飛ぶから、使う機会なんて今までなかったんだけどな……でも、今しか、ねえ……!!!」
シグルドの筋肉が膨れ上がり、その体が一回り大きくなる。
血管が浮き上がる。
目が充血して、赤くなった。
「ぐっ、があああ……この力が、あればぁ、てめぇごとき……!!!」
「そんなものを使って僕を倒したとしても、逃げられるわけが……」
「負けるよりはマシだ!!!」
口から泡を散らしながら吠えて、
「いくぜぇ……鏖殺だぁああああ!!! ぐぉおおおおおっ!!!」
「っ!?」
再びの突撃。
とても単純な動きで、技術というものがまったく感じられない。
しかし、その速度はさきほどと比べ物にならなかった。
まるで、ソフィアと対峙しているかのようだ。
驚異的な速度で迫るシグルドは、折れた剣を鈍器のように扱い、叩きつけてくる。
「ぐっ!?」
避けることは難しく、剣を盾のように使い受け止めた。
ズンッ、と全身に圧力がかかる。
巨人に押さえつけられているかのようだ。
スピードだけじゃなくて、パワーも桁違いに上がっている。
「おぉおおおおおっ!!!」
理性が飛んできているらしく、その瞳に、もう正気の色はない。
デタラメに拳を振り回してくるだけだ。
以前、模擬戦で激突した時は、ソフィアには遠く及ばないものの、それなりの剣技を見せていたのだけど……
今は、技術の欠片もない。
強引に力をぶつけてくるだけだ。
「でも、これは……くうううっ、けっこうキツイかも」
子供がダダをこねているような感じで、シグルドはデタラメな動きで剣を叩きつけてくる。
もう片方の手も鈍器のように使い、殴りつけてくる。
技術はないのだけど、パワーとスピードは圧倒的だ。
対処することが難しい。
「だけど!」
技術がないため、定期的に隙が露出する。
わずかな時間ではあるのだけど、カウンターに移る機会がある。
慎重に見極めて……
「ここだ!」
シグルドの剣をギリギリまで引きつけてから避けて、横を駆け抜けるようにして、ヤツの分厚い脇腹を斬る!
彼はアタッカーなので、体力は十分にあるだろう。
すでに街を抜け出している、という可能性もある。
ただ、僕はもう一つの可能性を考えていた。
シグルドは非常にプライドが高い。
病的と言ってもいい。
そんな彼が、やられっぱなしで黙っていられるだろうか?
ソフィアが一緒にいたら、さすがに手を出してくることはないだろうけど……
僕一人なら?
奴隷、無能と侮る僕だけならば?
その予想は……的中する。
魔物や獣の侵入を防ぐため、街は、ぐるりと壁に囲まれている。
出入り口は、東西南北の四つ。
ただ、大災害が起きた時などに備えて、普段は使われていない非常口が存在する。
そこに移動すると……
「おらぁっ!!!」
「っ!」
物陰からシグルドが飛び出してきて、問答無用で斬りかかってきた。
巨大な大剣を叩きつけるようにして、僕を両断しようとする。
ただ、それは読んでいた。
「ふっ!」
「なぁ!?」
下からすくいあげるようにして剣を跳ね上げる。
刃がシグルドの剣の腹を叩く。
ギィイイインッ!!!
ガラスをまとめて数十枚叩き割るような音。
シグルドの剣が半ばから折れた。
一方、僕の剣は無事。
頑丈と聞いていたけど、これほどとは。
改めて、この剣を貸してくれたソフィアに感謝だ。
「くそっ、バカな……なんで、てめえが俺の攻撃を防いでいるんだよ? ありえねえだろ。無能のくせに、なんでなんでなんで……!!!」
「僕は、模擬戦でシグルドに勝ったはずだけど?」
落ち着いて、そう言うことができた。
以前は、彼に対する恐怖があった。
ただ、それはシグルドの実力を恐れていたわけじゃない。
長年の奴隷生活で酷い扱いを受けていたから、逆らうことが難しく、体に恐怖が染みついてしまっていたのだ。
でも、今は違う。
その恐怖と苦痛は、ソフィアの温かい心が癒やしてくれた。
僕に自信をつけてくれた。
もう、こんなヤツは怖くない!
「おとなしく投降するつもりは……ないみたいだね」
シグルドは獣のような目をしていた。
ここで終わるなんてことはありえない、絶対に諦めてたまるものか、まだまだ上に上り詰める。
……そんなことを考えているように見えた。
「もうすぐソフィアも駆けつけてくるよ。いい加減、諦めない? なにを思って、こんなバカなことをしたのか、いまいちわからないけど……シグルド達は、もう冒険者に戻ることはできない。おとなしく罪を償うんだ」
「罪ぃ……? ははっ、この俺に罪があるだと? ……ふざけるなっ!!!」
突然、シグルドが激高した。
「俺は、Aランクパーティー『フレアバード』のリーダーだ! 誰もが一目置く、一流冒険者だ! そんな俺に罪がある? そんなわけないだろうっ!!! ふざけたことを言うな! 俺が悪いわけねえ、全部全部全部、てめえのせいだろうが! てめえが、てめえが俺達に歯向かうから、生意気なことをするから、だからっ!!!」
シグルドに対する恐怖は克服したはずなのだけど、それでも、一瞬、気圧されてしまう。
それほどまでに、彼が抱える想いは歪んでいた。
ここまでなんて……
唖然とするものの、すぐに我に返った僕は剣を構え直した。
もう言葉では止まらない。
実力行使あるのみだ。
そして……今度こそ、僕は過去に決着をつける。
「……俺に勝てるつもりか?」
「つもりとか、そういうのはどうでもいいんだ。勝つ。それだけだよ」
「くそっ、まだ生意気なことを……いいぜ! ここで、グチャグチャに叩き潰してやるよぉおおおおお!!!」
シグルドは小瓶を取り出して、ドロリと粘度の高い液体を飲み干した。
「それは……?」
「ぐううう……はっ、ははは! コイツは、力を何倍にも引き上げる薬だよ。俺の切り札さ。まあ、理性が飛ぶから、使う機会なんて今までなかったんだけどな……でも、今しか、ねえ……!!!」
シグルドの筋肉が膨れ上がり、その体が一回り大きくなる。
血管が浮き上がる。
目が充血して、赤くなった。
「ぐっ、があああ……この力が、あればぁ、てめぇごとき……!!!」
「そんなものを使って僕を倒したとしても、逃げられるわけが……」
「負けるよりはマシだ!!!」
口から泡を散らしながら吠えて、
「いくぜぇ……鏖殺だぁああああ!!! ぐぉおおおおおっ!!!」
「っ!?」
再びの突撃。
とても単純な動きで、技術というものがまったく感じられない。
しかし、その速度はさきほどと比べ物にならなかった。
まるで、ソフィアと対峙しているかのようだ。
驚異的な速度で迫るシグルドは、折れた剣を鈍器のように扱い、叩きつけてくる。
「ぐっ!?」
避けることは難しく、剣を盾のように使い受け止めた。
ズンッ、と全身に圧力がかかる。
巨人に押さえつけられているかのようだ。
スピードだけじゃなくて、パワーも桁違いに上がっている。
「おぉおおおおおっ!!!」
理性が飛んできているらしく、その瞳に、もう正気の色はない。
デタラメに拳を振り回してくるだけだ。
以前、模擬戦で激突した時は、ソフィアには遠く及ばないものの、それなりの剣技を見せていたのだけど……
今は、技術の欠片もない。
強引に力をぶつけてくるだけだ。
「でも、これは……くうううっ、けっこうキツイかも」
子供がダダをこねているような感じで、シグルドはデタラメな動きで剣を叩きつけてくる。
もう片方の手も鈍器のように使い、殴りつけてくる。
技術はないのだけど、パワーとスピードは圧倒的だ。
対処することが難しい。
「だけど!」
技術がないため、定期的に隙が露出する。
わずかな時間ではあるのだけど、カウンターに移る機会がある。
慎重に見極めて……
「ここだ!」
シグルドの剣をギリギリまで引きつけてから避けて、横を駆け抜けるようにして、ヤツの分厚い脇腹を斬る!