僕は剣を構える。

「我と戦うつもりカ?」
「そうだね」

 水神が僕達人間を家畜として見ているのは、別に咎めるつもりはない。
 人間も同じことをしているから、咎める権利なんてない。

 でも、素直に従うかどうかは別だ。

 されるがままとか。
 言われた通りに生贄を捧げるとか。
 おとなしくやられるとか。

 そうそう思い通りにいかないっていうことを、教えてやる!

「愚かナ。人間ごときが我に敵うとでモ?」
「やってみないとわからないよ」
「くだらヌ。もういイ、消えヨ」

 水神は全身を竜巻のように激しくうねらせつつ、回転した。
 その勢いを乗せて、尾を叩きつけてくる。

 ガァッ!!!

 石畳が大きくえぐれ、破片が飛び散る。

 なんて破壊力だ。
 まるで、爆弾が炸裂したかのよう。

 咄嗟に跳んで避けたものの……
 直撃していたら、そこで終わりだっただろう。

「でも……それなら、全部避ければいいだけだよね!」
「ム!?」

 水神が攻撃するよりも早く動いて、撹乱してやる。

 右手に回り込み……
 急旋回して、水神の左手へ移動。
 それから前後の移動を繰り返して、常に攻撃を避ける。

 流れてきた倒木などがあるから、足場には困らない。

「ネズミのようにちょこまかト!」
「体が大きいと大変だね!」
「グッ!?」

 すれ違いざまに一撃を叩き込む。

 剣の半ばまでを食い込ませたのだけど……
 相手が大きすぎるせいで、大したダメージにはなっていないみたいだ。

 ここまで大きいと、ものすごく苦戦しそうだ。
 ある意味で、今までで一番の強敵かもしれない。

「人間ごときガ!」
「偉そうに言っているけど、その人間ごときに取り引きを持ちかけたあなたは、どれくらい偉い存在なのかな? そうでもないよね」
「貴様!」

 挑発は成功して、水神の攻撃がさらに激しくなった。

 苛烈な攻撃が続くけど……
 でも、怒りに任せた攻撃なので、精度が甘い。
 簡単に狙いを読めるようになったので、さっきよりも楽に避けることができた。

「とはいえ……」

 適度に反撃を繰り出しているけど、致命的なダメージには程遠い。
 この分だと、あと何回、斬りつけないといけないかわからない。
 下手をしたら、数時間、戦闘が続くかも。

 体力の心配はあまりしていない。

 奴隷だった頃、もっと過酷な環境で三日間、寝ずに働いたことがあるし……
 まだまだ余裕だ。

 でも、街の被害が気になる。
 これ以上、水神が派手に暴れたら、どうなるか。
 街に致命的な被害が出てしまうかもしれない。

 そんなことになる前に、どうにかして倒したいんだけど……

「フェイト」

 ポケットから、リコリスがひょこっと顔を出した。
 状況は把握しているらしく、珍しく真面目な顔だ。

「あたしに任せなさい!」

 訂正。
 いつものドヤ顔だった。