嵐の中、僕とリコリスは外に出た。

「ひゃあ!?」
「危ない!」

 リコリスが飛ばされそうになるので、慌てて掴まえた。
 そのまま、ポケットに運ぶ。

「ここなら大丈夫」
「ふぅ、助かったわ。このまま飛ばされてどうにかなったら、世界の損失よ。その時は、今日は、リコリスちゃん喪失記念日として、後世まで語り継がれちゃうわね」

 記念日にしていいの……?

「すごい風と雨だね。歩くだけじゃなくて、目を開けるのも大変かも」

 ゴウッ! と風が吹く度に、体が飛んでいってしまいそうになる。
 その度に足腰に力を入れて、ふんばらないといけない。

 それに、叩きつけるような雨も厳しい。
 目を開けていると雨が飛び込んできて、痛い。

 細目にしないと前を確認することができない。

「ソフィアにもついてきてもらった方がよかったんじゃない?」
「そういうわけにはいかないよ。黎明の同盟の件があるから、アイシャとスノウを二人だけにするわけにはいかないし……」
「いかないし?」
「こんな大変なこと、ソフィアにはさせられないよ」
「でもぶっちゃけ、ソフィアの方が強いでしょ」

 本当にぶっちゃけられた。

 まあ、その通りだ。
 剣聖であるソフィアの方が何倍も強い。

 でも……

「それでも、女の子だから」
「……」
「時代錯誤な考えかもしれないけど、僕は男で……なるべく、彼女を大変な目に遭わせたくないんだ。守れる時は守りたいんだ」
「ふーん」

 リコリスがニヤニヤと笑う。
 そして、小さな肘で小突いてきた。

「なによ。フェイトってば、なかなかやるじゃない。かっこいいわよ。世界のリコリスちゃんが認めてあげる」

 いつの間にか、ワールドワイドになっているリコリスだった。

「見えてきた!」

 嵐の中、ジリジリと前に進んで……
 ようやく川が見えてきた。

 川は荒れ狂う魔物みたいで、轟音を立てていた。
 もしも足を滑らせたら、一瞬で飲み込まれて、戻ってこれないだろう。

「……いるわね」

 ポケットに収まるリコリスが、真面目な顔で川を睨みつけた。
 水神のことを言っているんだろう。

「わかるの?」
「いやーな気配がするわ。集中すれば、フェイトにもわかるはずよ」
「えっと……」

 ゴォオオオッ!!!

「……ごめん。この状況だと、集中するのは難しいかも」
「まったく、仕方ないわねー。このゴッドリコリスちゃんに任せなさい」

 ついには神様に!?

「んー……上流の方から気配を感じるわね」
「上流だね? 了解」

 川沿いに歩いて、上流へ向かう。

 街を出て、さらに三十分ほど歩いて……
 ほどなくして、湖が見えてきた。

 大きな湖で、アクアレイトと同じくらいの広さがある。
 ここが川の起源になっているのかな?

「ここから気配がするわ。油断しないでね」
「うん」

 いつでも剣を抜けるように体勢を整えて、湖に近づいていく。

 川と同じように、湖も激しく荒れていた。
 湖全体がうねり、雄叫びをあげているかのようだった。

 そんな中……

 湖底に大きな影が見えた。