「水神が犯人……? どういうことですか?」

 ソフィアが疑問顔に。
 それも仕方ない。
 僕の推理は、けっこうな暴論になるから、普通は思い浮かばないはず。

「水の神様がいたのか、それはわからないけど……それに近い存在はいたと思うんだ。でないと、伝承に残らないからね」
「そうですね……それについては賛成です」

 災厄を神様などに例えて、後世に伝えるという話はよく聞く。

 ただ、今回の場合、やけに具体的だ。
 災厄を例えていたわけじゃなくて、それに等しい存在がいたと考えるのが自然だろう。

「一応、水神っていう呼称をそのまま使うけど……水神は、無意味に人と争うつもりはなかったと思うんだ」

 人は弱いようで強い。
 個ではあっさりとやられてしまうけど、多になると数で押し切ることができる。

 それだけじゃなくて、時に、突出した存在が現れる。
 それは英雄と呼ばれる人で……

 その力は一騎当千。
 時に、想像を絶する力を発揮する。

 そんな人を敵に回したら厄介だ。
 だから、敵になってはいけない、味方になるべきだ。
 きっと、水神はそう考えたのだろう。

「でも、空腹は満たしたい。そこで、水神は一計を案じた」
「まさか……」
「うん。自分で嵐を引き起こして、そして、生贄を求めた。そうすれば嵐を収めることができる、って言ってね」

 そうすれば人と敵対することなく、生贄を得ることができる。
 要するに、自作自演だ。

「それが本当だとしたら、今回の嵐も……」
「水神の自作自演かも」

 どうして、今になってそんなことを再開したのか、それは謎だけど……

「フェイトの推理が正しいとしたら、許せることではありませんね」
「うん。でも、あくまでも推理だから、それを裏付ける証拠が欲しいんだよね」

 実は間違いでした、なんてことになったら目も当てられない。
 行動を起こすには、確実な証拠が欲しいところだ。

「でも、調べるにしても時間がないんだよね……」

 街が沈むまで二日か三日くらい。
 おまけに、外は暴風雨。

 そんな状態で調べ物をしてもはかどるわけがない。

「その水神とやらを探し出して、切り捨ててしまいましょう」
「え? でも証拠が……」
「後で探せばいいんですよ。フェイトの言うことなら、間違ってなんかいません」

 どうしよう。
 ソフィアの僕に対する信頼度が高すぎて、ちょっと怖い。

 いや、まあ。
 信じてくれるのはうれしいんだけど、そのために、冤罪覚悟で水神を切り捨ててしまうのは……それはアリなの?

「話は聞いたわ!」
「わっ!?」

 突然、リコリスが飛び出してきた。
 たぶん、ヒマになって追いかけてきたのだろう。

「いきなり現れないでよ」
「アイシャちゃんとスノウはどうしたんですか?」
「二人なら寝ちゃったわ。ここまでの旅で疲れていたんでしょうね。それよりも、あたしに任せなさい!」

 リコリスは得意そうな顔をして、自分の胸をどーんと叩いた。

「けほっ、こほっ」

 強く叩きすぎたらしく、むせていた。
 不安でしかない。

「なにか考えがあるの?」
「その水神っていうの、たぶん、魔物でしょ? 長年生きたことで知恵をつけて、言葉をしゃべるヤツとか、たまにいるし」
「そうなの?」
「そうよ。だから、あたしが話をつけてあげる」
「リコリスが?」

 大丈夫かな?
 余計に話がこじれたりしないかな?

 頼もしさよりも不安が先行してしまうのは、彼女の日頃の行いが原因かもしれない。

「あたしに任せておきなさい!」