天気はあいにくの雨。
 でも、当初の予定通り街につくことができた。

 中央に巨大な川が流れていて、街を北と南に分けている。
 その他にも小さな水路が街の至るところを流れていた。

 水の都。
 この街……アクアレイトは、そうよばれていた。

「それにしても、ひどい雨だね」

 街中に入ると、雨が一層激しくなった。
 風も強く、傘はもう役に立たない。
 ローブを着て、それで雨を防ぐ。

「嵐が来ているのでしょうか……?」
「馬車は、まずは対岸に渡らないといけないんだっけ?」
「そうですね。ですが……」

 ソフィアは暗い雨空を見上げて、ため息をこぼす。

「この天気では、対岸までの船は出ていないでしょう」
「先に宿を探した方がよさそうだね」

 テンションが下がる僕とソフィア。
 その一方で、

「きゃー♪」
「オンオンッ!」

 アイシャとリコリスは楽しそうだった。

 たぶん、二人にとって初めての嵐。
 怖いって思うよりも先に、未知の体験を楽しいと感じているんだろう。

 怖がるよりはマシなのだけど、でも、注意しないと。
 嵐で怪我をすることはよくあるから、しっかり二人のことを見ておかないと。

「って……あれ? リコリスは?」
「あら?」

 ソフィアと一緒に小首を傾げた。
 いつの間にかリコリスが消えていた。

「ぴゃあああああ!?」

 振り返ると、街頭に必死の形相で捕まり、吹き飛ばされそうになっているリコリスの姿が。


「「リコリス!?」」

 僕とソフィアは、慌ててリコリスを助けに向かうのだった。



――――――――――



「し、死ぬかと思ったわ……」

 無事、リコリスを救出して……
 それから宿に移動して、濡れた体を拭いた。

「嵐怖い嵐怖い嵐怖い……」

 小さなタオルにくるまるリコリスは、ガタガタと震えていた。
 ちょっとしたトラウマになってしまったみたいだ。

「大丈夫?」
「クゥーン」

 アイシャとスノウがリコリスを慰めている。
 二人に任せて、僕とソフィアは情報収集をしよう。

 部屋を出て、一階の食堂兼酒場に移動する。

「おや、お客さん。風邪は引いてないかい?」

 宿の女将が気さくに話しかけてくれた。
 部屋を貸してくれるだけじゃなくて、ずぶ濡れになった僕達のためにタオルも貸してくれた良い人だ。

「タオルを貸してくれたおかげで大丈夫そうです。ありがとうございました」
「なに、いいってことさ。困った時はお互い様だからね」

 気の良い笑みを浮かべる女将。
 まずはこの人に話を聞いてみよう。

「街の北に渡る船に乗りたいんですけど、チケットはいつ頃売っているんですか?」
「街の北に? それは……」

 さっきまでの笑みが消えて、女将は苦い表情になった。

「えっと……なにか問題が?」
「問題もなにも、この嵐だろう? 船は出せないよ」
「今すぐに、なんてさすがに思ってませんよ。嵐の後に乗りたいんですけど……」
「そっか。あんた達、旅人だからわからないのか。嵐は収まらないよ」
「嵐が収まらない……?」
「それはどういう意味ですか?」
「……この街は、もう終わりだよ」

 そう語る女将は、絶望の感情を瞳に宿していた。