翌朝。

「……」
「……」

 カチャカチャと食器の音だけが響いていた。

 昨日までなら、おいしいごはんを食べながら色々な話をしていたんだけど……
 今日は無言。
 ひたすらに無言。

 その原因は僕達にある。

「……ふん」
「……ふん」

 ソフィアと目が合い、すぐに逸らした。
 それは向こうも同じ。
 不機嫌そうに鼻を鳴らしつつ、無視をする。

 その態度はなんだろう?
 ひどくないかな?

「え、えっと……」

 僕達のケンカに、クローディアさんはあわあわとして……

「うぅ……」
「クゥーン……」

 アイシャとスノウは元気がない。

 二人にこんな顔をさせてしまうなんて、ものすごく心が痛い。
 今すぐに笑顔になってほしい。

 なってほしいんだけど……

「……ふん」
「……ふん」

 ソフィアと仲直りをする?
 彼女の固い思考が原因なのに?

 アイシャとスノウを王都に連れていくか。
 それとも、獣人の里で匿ってもらうか。

 どちらが正しいわけじゃなくて、どちらを選んでも正解なのだと思う。
 それなのにソフィアは自分の意見が正しいと信じて疑わず、強引に押し通そうとした。

 そんな身勝手、許せるわけないじゃないか。
 僕から謝るなんてこと、絶対にしないぞ。

「……やれやれ」

 無言の食事を続ける中、リコリスの呆れたようなため息が響いた。



――――――――――



 その後もケンカは続いて……

「……ふん」
「……ふん」

 顔を合わせれば、それぞれ顔をふいっと背けて。

「……ふん」
「……ふん」

 他の食事の時間も無言。

「……ふん」
「……ふん」

 一緒に過ごす時間もなくなり、一人の時間が増えた。



――――――――――



 ……ソフィアとケンカをして、三日後。

「はあ……こんなことしてる場合じゃないのに」

 割り当てられた部屋のベッドに寝て、ぼーっと天井を眺めていた。

 一刻も早く王都に行って、黎明の同盟をなんとかしないといけない。
 いけないのに、ここを動くことができない。
 ソフィアとのケンカが終わらない。

「ソフィア、本当に意地っ張りなんだから……ちょっとくらい自分の意見を曲げてもいいのに」
「それ、フェイトが言う?」
「リコリス?」

 いつの間にかリコリスが。
 体を起こす。

「どうしたの?」
「ソフィアが意地っ張りって言うけど、フェイトは? まるでソフィアの話を聞こうとしない、意見を認めようとしてないじゃない」
「そ、それは……」

 痛いところを突かれてしまい、言葉に詰まってしまう。

「そうかもしれない、けど……でも、今はケンカなんてしている場合じゃないよ。すぐに王都に行って、黎明の同盟をなんとかしないと……」
「そんなことは二の次じゃない?」
「え?」

 黎明の同盟を放置したら、どんな災厄が訪れるか。
 そのことはリコリスはわかっているはずなのに、どうしてそんなことを言うんだろう?

「今は、もっと大事にしなくちゃいけないことがあるでしょ」
「……ソフィアのこと?」
「違うわよ。はー……まったく、こういうところで人生経験が足りてないのが露見するわね。ホント、あたしがいないとダメなんだから」
「……なにが足りていないのさ」

 僕の意見が間違っているかのような言い方に、ついついむすっとしてしまう。

 でも、リコリスの態度は変わらない。
 むしろ、より呆れた様子でジト目を向けてきた。

「他に考えるべきこと、優先することがあるでしょ」
「だから、それは……」
「一番に考えないといけないのは、アイシャとスノウのことじゃないの?」
「っ!!!?」