クローディアは一人、里から離れた場所を歩いていた。

 剣は腰に下げたまま。
 代わりに弓と矢を手にして、獣を追う。

 狩りだ。

 人間との交流を持たないクローディア達獣人は、自給自足が基本だ。
 たまに、スノウレイクの商人と取り引きをすることはあるけれど……
 それは例外で、基本、人間と関わることはない。

「……フッ!」

 クローディアが矢を放ち、鹿が倒れた。

 この一頭で村全体を満たすことができる。
 命をありがたくいただこう。

 軽く祈りを捧げた後、クローディアは鹿を持ち帰ろうとして……

「何者ですか?」
「……」

 音もなく五人の男達が現れた。
 黒装束で、いずれも覆面で顔を隠している。
 ただ、体格から男ということはわかる。

 クローディアの問いかけに答えず、男達は短剣を抜いた。

 刃がわずかに濡れている。
 毒が塗られているようだ。

 それを見抜いたクローディアは、わずかに厳しい顔に。

「毒ですか……私を殺すことが目的なら、そのようなものは必要ありません。おそらく、それは麻痺毒……目的は私を連れ去ることですか?」
「……」

 男達は答えない。
 ただ、無言でクローディアを囲み、じりじりと距離を詰めていく。

 そして必殺の間合いに達したところで、男達は一斉に動いた。
 四方から囲むようにして突撃して、クローディアの逃げ場を潰す
 その上で、同時に刃を振る。

 前後左右から迫る攻撃。
 しかも同時攻撃のため、全てを防ぐことは難しい。

 男達は勝利を確信するが……

 しかし次の瞬間、それは消える。

「なっ!?」

 刃を振ると、クローディアの姿が蜃気楼のように消えた。
 担いでいた鹿も一緒に消えてしまう。

 狐に化かされていたのだろうか?

 男達は動揺して……
 だから、それに気づかなかった。



――――――――――



「スーパーリコリスちゃんストラーーーイクッ!!!」

 動揺する男達の中心に光弾が放たれて、そのまま炸裂した。

 衝撃が吹き荒れるが、それはあまり大したことはない。
 それ以上に強力なのが音と光だ。

 キィイイイン! と甲高い音が響いて男達の聴覚を奪う。
 その上、強烈な閃光が視界を焼いてしまう。

 二重苦に耐えられなくて、男達は次々と倒れていった。

「ふふんっ! 敵を必要以上に傷つけることなく、一瞬で倒す。これこそがリコリスちゃんのウルトラパワーよ!」
「オンッ」
「ぎゃー!? なんで!? なんであたしを食べるのよ!?」

 調子に乗るな、という感じでリコリスがスノウに食べられていた。

 まあ、本気で食べているわけじゃなくて甘噛みしているだけ。
 それならいいかと、今はスルー。

「フェイト、いきましょう」
「うん。クローディアさんも」
「はい!」

 あらかじめ周囲に隠れていた僕達は前に出て、倒れた男達を捕縛した。

「うぅ……なんだ、貴様らは……」
「敵だよ」
「見事に誘い出されてくれましたね」

 つまり、これが『釣り』だ。

 クローディアさんにエサになってもらい、里の外に出てもらう。
 そうすれば、里の手がかりを求める黎明の同盟の関係者はクローディアさんを襲い、誘拐しようとするだろう。

 それを予期しておいた僕達は、逆に罠を張り、黎明の同盟の関係者を捕まえる……という作戦だ。

 レナのような幹部クラスが出てきたら危ないところだったけど、そこは賭けだった。
 そして、僕達は賭けに勝った。
 おかげで、こうして黎明の同盟の関係者を五人も捕まえることができた。

 ただの野盗という可能性は?

 それはない。
 だって、彼らが使う紋章を身に着けているからね。
 それを確認した上で行動した。

「さてと……」
「では……」

 ソフィアとクローディアさんがにっこりと笑う。

「「色々と教えてもらいましょうか」」

 この二人に捕まったのは災難だったなあ……と、敵なんだけど同情してしまうのだった。