結界を構築して、この地を浄化するため、僕達を含めて里のみんなが動いた。

 必要な素材を集めて。
 準備を進めて。

 その一方で、二度目の襲撃に備えて警戒も怠らない。

 斥候の目は欺くことができたけど、もしかしたらすぐにバレてしまうかもしれない。
 あるいは、二度目の斥候がやってくるかもしれない。
 そういった時に備えての行動だ。

 そうやってみんなで協力して準備が進められて……

 翌日。
 結界構築の準備が完了した。

「こちらへ」

 クローディアさんの案内で、里にある神殿へ。

 普段は、ここで祈りが捧げられているらしい。
 人間で言うと教会のようなものだ。

 そんな神聖な場所だからこそ、結界の起点としてうってつけらしい。

 すでに準備は整えられていた。
 床には魔法陣が。
 前後左右に魔力が込められたクリスタルなどなど。

「姫様、神獣様、こちらの魔法陣へ」

 クローディアさんが二人を魔法陣へ導いた。

「えっと……」
「大丈夫だよ」
「私達はここにいますからね」

 ちょっとだけ不安そうにするアイシャに、僕達は笑ってみせた。
 それで不安がとれたらしく、アイシャは、がんばるぞ! と小さな拳をぎゅっと握り、魔法陣の上へ。

「そこで祈りを捧げてください」
「祈り……?」
「はい。姫様や神獣様の想いが一番大事な力となるので……後の細かいことは、私達が引き受けます」
「……がんばる」

 アイシャは膝をついて両手を合わせた。
 スノウは床にお尻をつけて、ピシリと座る。

 そして、共に目を閉じて祈りを捧げる。

「「……」」

 アイシャとスノウの体から光があふれていく。
 それらはとても優しく温かくて……
 意味もなく泣いてしまいそうになるほど、懐かしいものでもあった。



――――――――――



 結界は無事に構築された。
 同時に里の浄化も完了して、溜め込まれていた負の感情は綺麗さっぱり消失した。

 大成功だ。

「すぅ、すぅ……んゅ……」
「スピー……スピー……」

 アイシャとスノウは、ベッドで抱き合うようにして寝ていた。

 結界の構築で疲れたらしい。
 今はゆっくりと休んでほしい。

 僕とソフィアは二人の寝顔を少し見た後、そっと部屋の扉を閉じた。
 そのまま一階に降りて、クローディアさんと合流する。

 ちなみに、ここは僕達のために用意された家だ。
 アイシャとスノウがいるからなのか、里で一番良い家を用意してくれた。

「姫様と神獣様は……?」
「ぐっすり眠っています。少し疲れちゃったみたいです」
「そうですか……」

 クローディアさんが難しい顔に。
 結界の構築や里の浄化は必須だったけれど、アイシャとスノウに負担をかけてしまったのではないか? と気にしているらしい。

「クローディアさんが気にすることはありませんよ」
「しかし……」
「アイシャとスノウがやるって決めたことです。だから、大丈夫です」

 それに、二人はまったく気にしていないと思う。
 むしろ、里を助けることができて誇らしく思っているはず。

「それより、次のことを考えましょう」
「フェイトの言う通りですね。黎明の同盟の目的がハッキリした以上、放置なんてしておけませんから」

 ちょっと意外だった。
 ソフィアが、まさかここまでやる気を見せるなんて。

「あんな泥棒猫を放置しておいたら、どうなるかわかったものではありません。フェイトは、私だけのものです!」

 ぎゅうっと、抱きしめられてしまう。
 やっぱり、ソフィアはソフィアだった。

「でも、次はどうすればいいのかな……?」

 黎明の同盟の目的は判明した。
 でも、組織の規模や構成員。
 本拠地も場所も、わからないことの方が多い。

「……ふむ」

 クローディアさんが考えるような顔に。
 ややあって口を開く。

「では、釣りをしてみるというのはいかがでしょう?」