「ボクは……」

 レナは少し声が震えていた。
 そこで言葉が止まっていた。

 でも、焦って促すようなことはしない。
 あくまでも彼女の自主性に任せたい。

「ボクは……!」
「うん」
「うぅ……くううう!」

 どこにそんな体力が残っていたのか。
 レナは大きく後ろへ跳んで逃げてしまう。

「レナ!」
「どうしたらいいか、わからないよ……」
「……レナ……」
「ボクは使命があるはずなのに。ボク達から全部を奪った世界に復讐しなくちゃいけないのに。でも……」

 レナは泣きそうな顔でこちらを見る。

「フェイトと戦うのは……嫌だよ」
「なら!」
「でも、ボクは……ボクは!」

 レナはうつむいた。
 ぽつりと、涙が落ちる。

「……またね」

 魔道具を隠し持っていたのだろう。
 彼女の足元に魔法陣が展開されて……
 そして、そのまま姿が消える。

 最後、レナがどんな顔をしていたのか?
 それはわからなかった。



――――――――――



「いたたたっ」

 獣人の里に戻り治療を受ける。

 最後まで立っていられたものの、実はあちらこちらがボロボロで、かなりの重傷だったらしい。
 まずは、リコリスの魔法で治療を。
 それから獣人が使う特製の秘薬を分けてもらい、ソフィアに塗ってもらっているところだ。

「まったく、こんなになるまで無茶をするなんて……私が駆けつけていなかったら、どうなっていたことか」
「ありがとう、ソフィア。本当に感謝……あいたたたっ」
「しているのなら、あまり心配をかけさせないでください!」
「ごめん……」

 もっともな話なので、頭を下げることしかできない。

「まーまー、そんなに責めたらかわいそうよ」

 意外というべきか、リコリスが間に入ってくれた。

「突発的な遭遇だったんでしょ? なら、どうしようもないじゃない。里の場所を知られるわけにもいかないし、あそこで食い止めるのは正解よ」
「それはそうかもしれませんが……」
「というか、ソフィアは嫉妬してるだけでしょ? あの女とフェイトが密会してた、許せないー、って」
「うっ!?」

 図星だったらしく、ソフィアが苦い表情に。

「そうなの?」
「……」

 ソフィアは顔を背けてしまう。
 代わりにリコリスが答える。

「そうなのよ。ソフィアったら、『泥棒猫の匂いがします』とか言って、いきなり飛び出していったんだもの。里を守るとか、そういうことは考えてなかったわね。嫉妬よ、嫉妬」

 意外……でもないのかな?
 ソフィアって、わりと独占欲が強い。
 そういう行動に出ても不思議じゃないと思う。

「そっか……ありがとう、ソフィア」
「え? ど、どうしてお礼を言うのですか? 私は……」
「でも、ソフィアのおかげで助かったから」

 理由はどうあれ、ソフィアが駆けつけてくれなかったら僕は死んでいたと思う。
 それに……

「身勝手な話だけど、嫉妬してくれるのはうれしいよ」
「っ……!」

 ソフィアは顔を赤くして、

「……その言い方、ずるいです」

 唇を尖らせるのだった。