泣いているレナを見たら、僕は、胸が苦しくなってしまう。
 そんな顔は見たくない、って思う。

 僕とレナは同じだ。

 抱えているものの大きさはぜんぜん違うけど……
 僕達は、共に虐げられてきた。

「安い同情なんかしないで……!!!」

 レナが強く睨みつけてきた。
 怒りが全身からあふれている。

 同情なんてするな。
 心に踏み込んでくるな。
 優しいフリをするな。

 ……そんな感じで、レナは僕を拒絶する。

「フェイト」

 そっと、ソフィアが隣に立つ。

「いまいち状況が掴めていないのですが……」
「え? そうなの?」

 てっきり、レナや黎明の同盟のことを突き止めて、応援に来てくれたと思っていたんだけど。

「妙に嫌な感じがしまして。それでフェイトを探してみたら、あの泥棒猫がいたので、とりあえず斬りかかってみました」
「とりあえず、って……」

 直情的すぎないかな?

 いや、まあ。
 そのおかげで助けられたから、強くは言えないんだけど。

「詳しいことは後で説明するよ」
「わかりました。では、この泥棒猫の処刑を……」
「まってまってまって」
「はい?」

 どうして止めるの?
 と、本気で不思議そうな顔をするソフィア。

 怖いから。

「レナのことは僕に任せてくれないかな?」
「心配です」
「僕なら大丈夫。それに、レナもきちんと話せばわかってくれると思うんだ」
「……わかりました。フェイトにお任せいたします」

 ソフィアは小さく頷いて、剣を鞘に収めてくれた。
 ただ、その状態のまま、柄は握ったままだ。

「ですが、いざという時は斬るので」
「うん、それでいいよ」

 ソフィアが過剰に反応しているのは、僕を心配してくれているからだ。
 その気持ちを否定するようなことはしたくない。

 よし。

 改めてレナと向き合う。

「ねえ、レナ」
「……なに?」
「僕は、同情は悪いことじゃないと思うんだ。相手の気持ちになって考えること、共感すること、っていう意味だもの」

 押し付けがましくなったり。
 勝手に、かわいそうだ、と決めつけたり。
 それは微妙なことかもしれないけど……

 でも、無視されるよりはいいと思う。
 どうでもいいとか思われるよりは、ずっとマシだと思う。

 少なくとも、同情してもらっているということは、関わろうとしてくれていること。
 そこから関係が発展することもあると思うんだ。

「レナは知らないかもしれないけど……僕、騙されて奴隷にされていたことがあるんだ」
「え?」
「十年くらいかな? ずっとひどい扱いを受けていて……だから、レナの気持ちはわかるつもりなんだ」
「……」
「他人に思えなくて、だから嫌いになりたくなくて……」

 そっとレナに手を差し出した。

「だから、もうやめよう?」
「……フェイト……」
「友達になってくれませんか?」
「あ……」

 レナの目が大きくなる。

 僕の手を見て、自分の手を見て……
 交互に見て、それからそっと口を開いた。