僕はとある作戦を思いついて、それを実行に移した。
 ただ、その作戦は、どうしても時間がかかる。

 その間に第四の事件が起きてしまわないか?
 それは賭けになるのだけど……

 僕は賭けに勝った。

 第四の事件が起きることなく三日が過ぎて、犯人を特定するための準備は完了。
 最後の仕上げをするために、僕とソフィアは領主の屋敷を訪ねた。

 突然の来訪なので、普通は会ってくれないのだけど……
 ソフィアの剣聖の称号が役に立ち、面会に応じてくれることに。
 彼女を利用しているようで心苦しいのだけど、

「大丈夫ですよ。私は、フェイトの力になりたいのですから。剣聖の称号が必要なら、どんどん利用してください」

 なんてことを言ってくれた。
 ホント、僕にはもったいないくらい、素敵な幼馴染だ。

「こちらへどうぞ」

 客間で待たされた後、さらに、メイドさんに案内される。
 そして、領主の執務室へ移動した。

「やあ、ようこそ。私が、この街の領主を務めている、ライト・ロスレイズだ」
「はじめまして。剣聖、ソフィア・アスカルトです」
「彼女の友人の、フェイト・スティアートです」

 ソフィアがスカートを両手でつまみ、優雅にお辞儀をする。

「この度は、突然の訪問に応じていただき、感謝いたします」
「なに。他ならぬ剣聖殿の頼みだからね。多少の無理はしても、話は聞くさ」
「ありがとうございます」

 僕も頭を下げた。
 話のわかる人でよかった。

「それで、今日はどうしたのかな?」
「それは……」

 ソフィアがこちらを見た。
 この後はどうするの? と、目で問いかけてくる。

 ここは僕に任せてほしいと目で合図をして、前に出る。

「ここ最近、街を騒がせている連続殺人事件について、話したいことがあります」
「なんだと?」
「犯人の正体がわかりました」
「それは本当か!? いったい、誰なのだ?」
「それは、これから明らかにします」
「どういう意味かね?」
「犯人は……ここにいます」
「「っ!?」」

 領主が驚いて、続けて、ソフィアも驚いた。
 詳しいことは話していないから、まあ、当たり前の反応だよね。

 後で怒られそう。
 怖い。

「ここにいるだと? 私とそなたと剣聖殿しかいないが……」
「つまり、こういうことです」

 僕は抜剣して、領主に向けて突撃する。

「フェイト!?」

 ソフィアが慌てるものの、今は説明している時間はない。

 領主との間を一気に駆け抜けて……
 彼を無視するような形で、その隣を抜ける。

 そこで剣を水平にして、横に薙ぎ払う。

「がっ!?」

 なにもないところに剣の腹が当たり、なにもないところから悲鳴が聞こえてきた。
 ややあって、やはりなにもないところから、ドサリと、なにかが倒れるような音。

「え?」
「な、なにが……」

 呆然とする二人。
 そんな二人に説明するかのように、僕は、音がした辺りに手を伸ばす。

 たぶん、この辺りだと思うのだけど……
 あった。

「見つけた」

 なにもないはずなのだけど、指差に伝わる感触。
 それを掴み、引き剥がす。

「えっ……なにないところから人が……?」
「ど、どういうことだ?」
「コイツが犯人なんだ」

 コイツというのは……ミラだ。

「な、なんで……あたしのことが?」
「隠れているつもりでも、けっこうわかりやすかったからね」
「このあたしが、こんな無能に……」
「その無能に、こんな風にされているんだよ」
「うぅ……く、悔しい」

 そこで限界に達して、ミラは気絶した。

「ねえ、フェイト。どういうことなのか教えてくれませんか? さっぱり事情がわかりません」
「うん、そうだね。まずは、そうだな……この魔道具について。見えないかもしれないけど、僕は今、右手に魔道具を掴んでいる。形状からして、ローブかな? かぶると周囲の景色と一体化して透明になる、っていう代物なんだ。弱点は、昼しか使えないということ。えっと、解除方法は……あ、できたできた」

 いじり回すと、ローブを実体化させることに成功した。

「そのようなものが……」
「これを着たミラが……あるいは、シグルドかレクターが犯行を繰り返していた、っていうこと。ミラがここにいるのが、その証拠だね」
「フェイトは、その魔道具の存在を知っていたのですか?」
「うん。以前は、荷物の管理も任されていたからね。シグルド達がコレを持っていたことは知っていたよ。だから、犯人の当たりをつけることができたんだ。もしかしてシグルド達が、って」
「なるほど……ですが、よく見つけることができましたね? 視覚をごまかすだけではなくて、気配も完全に遮断していたように思えましたが……」
「領主さまを狙おうとした時、殺意が漏れたからね」
「殺意が漏れたとはいえ、それは一瞬だったはずですが……それを見逃さないとは、さすがですね」

 たぶん、ソフィアも気がついていたと思うけど……
 事前情報を持っている分、僕が先に動くことができた、ということだろう。
 同じ情報を持っていたのなら、ソフィアの方が先に動いていたと思う。

「でも、どうして領主さまが狙われるとわかっていたのですか? あと、タイミングが……」
「この三日間で、色々な情報をバラまいたんだ。領主さまの身辺警護が薄いとか、そんな感じの。より大きな犯行をさせるように、情報操作をして、そうするように仕向けたんだ。その情報に、ミラはまんまと釣られたわけ」
「私を餌にしたというわけか」
「あ、あはは……すみません」
「まあ、犯人を捕まえることができたのだから、よしとしよう。しかし、なぜ、今このタイミングで襲ってくるとわかったのだ?」
「それは、僕に罪を被せるためかな」

 いまいち動機が不明なのだけど……
 シグルド達は、僕のことを疎ましく思い、社会的に抹殺しようとした。
 そのために今回の事件を引き起こした。

 連続殺人事件を引き起こして……
 適当なタイミングで、凶器を僕の部屋にこっそりと置く。
 後は、憲兵を連れてくれば現行犯逮捕、というわけだ。

 長い間一緒にいたから、彼女のとりそうな行動はよくわかる。

 ……ということを説明した。

「なるほど……元々は、キミが狙われていたということか」
「僕が動けば、彼らも動くと思ったんです。直接、領主さまを尋ねれば、その時を狙って動くかな? という予想もしていました。領主さまを殺して、誰かに目撃させて、自分は逃げる……たぶん、ミラは、そんな計画を立てていたんじゃないかな?」
「つまり、自分のことも囮にした?」
「もう……フェイトってば、そのような危険なことを考えていたなんて。一歩間違えれば、本当に殺人犯として逮捕されていたのかもしれないのですよ? わかっているのですか? フェイトは無茶をしすぎです!」
「えっと……ごめんなさい」

 ソフィアが本気で怒り、本気で心配してくれているのがわかるため、素直に頭を下げた。

「今回の事件、ミラの単独行動じゃないと思う。シグルド達も関わっていて、今なら証拠も隠滅されていないだろうから、色々と出てくるのではないかと」
「うむ、そなたの言うとおりにしよう。すぐに憲兵隊に連絡を取る」

 こうして、シグルド達のAランクパーティー『フレアバード』は壊滅して、犯罪者の烙印を押されることになるのだった。