「ボク達、黎明の同盟は、かつて神獣に味方をした者の末裔なんだ」

 そう語るレナは、どことなく誇らしげだ。

 裏切り者になんて与していない。
 正しい復讐の権利を持つ神獣に味方をした。

 そんな想いがあるのかもしれない。

「だから、ボク達は正しい歴史を知っているんだ。歪められて、捨てられて、葬りさられた神獣の無念を知っている。受け継がれている」
「……」
「そして……その想いは、ボク達が晴らさないといけない」

 レナは冷たい表情で、そう言う。

 抜き身の刃のようで……
 触れるもの全てを傷つけるような危うさがあって……

 でも、レナにそんな表情をさせているのは、過去の人達のせいだ。
 愚かな行いをしたせいで、黒い感情が後世に流れ着いている。

「今、人間達が築いている世界は神獣の犠牲の上に成り立つものだよね? そんなもの、許すことはできないよね? なら、一度全部壊してリセットしないと。そうすることが公平だと思わない?」
「それは……」
「かつての神獣の無念を晴らす。そして、世界を正しい方向に戻す……それが、ボク達、黎明の同盟の目的だよ」

 レナは、ちょっととぼけたところはあるものの、でも真面目な子だ。
 中途半端な理由で悪事に加担なんてしない。
 よほどの理由があるに違いない。

 そう思っていたんだけど……
 まさか、これほどの理由があったなんて。

 想像以上の事実を教えられて、すぐに言葉が出てこない。

「っていう感じかな」

 ころっと雰囲気を一変させて、レナが笑う。
 萎縮してしまっている僕を気遣い、態度を変えてくれたんだろう。

「ね、ね。フェイトもボク達の仲間になろう? ボク、フェイトと一緒に戦いたいな」
「そんなことは……」
「できない? ひどいことをした人間の味方をするの?」
「それは……」

 頭の整理が追いつかない。

 僕は……
 いったい、どうしたらいいんだろう?

「すぐに味方になれないとしても、ちょっとくらい協力してほしいな」
「協力……って?」
「あの子……スノウって言ったっけ? 神獣の生まれ変わりをちょうだい」
「え?」

 あっさりと言われてしまい、再び頭の中が真っ白になってしまう。

「あの子を素材にすれば、もっともっと強い魔剣を作ることができる。そうすれば、ボク達の復讐もやりやすくなるんだよね」
「スノウを……生贄にするつもり?」
「うん」

 ごまかすことはなく。
 ためらうこともなく。
 レナは、あっさりと頷いた。

「ボク達は強いけど、数が少ないからねー。量より質、っていう戦い方を選んでいるんだけど、まだまだ足りないんだ。だから、もっともっと強い魔剣が欲しいんだよね。神獣や獣人を素材にした魔剣なら、一級品ができるんだ」
「そのためにスノウを暴走させたり、アイシャを狙って……」
「大義の前には、ちょっとの犠牲なんて仕方ないよ」

 レナは、きっぱりと言い切ってみせた。

 ……それのおかげで、逆に僕の心が固まる。

「……大義なんてないよ」
「え?」
「僕は、まだまだ未熟だ。力は足りていないし、知らないこともたくさんある。でも、これだけは言える。レナに……黎明の同盟に大義なんてものはないよ」

 へぇ……という感じで、レナの目が細くなる。
 怒らせてしまっただろうか?

 ここでレナと敵対することは得策じゃない。
 彼女の方が力は上で、本格的な戦闘になったら、十中八九、僕は負けてしまうだろう。

 それでも。
 これだけは言わないといけないと思い、言葉を紡ぐ。

「過去の神獣が受けた仕打ちはひどいもので、復讐を考えるのは仕方ないと思うよ。でも、レナ達のやり方は間違っている」
「なんでそんなことが言えるのかな? かな?」
「些細なことと言って、誰かを殺すようなこと……絶対に認められないよ」

 普通の復讐なら、あるいは正しかったかもしれない。

 でも、レナ達は手段を選んでいない。
 無関係の人まで巻き込んでいる。
 本来は仲間であるはずの獣人や神獣も手にかけようとしている。

 全ては目的を果たすためというけど……
 仲間の無念を晴らすために仲間を殺すなんて、矛盾しているじゃないか。
 無茶苦茶な話だ。

 そもそも……

「正直言うと、世界のためとか人々のためとか、そんなだいそれた理由で戦うつもりはないよ。そんな覚悟はないし」
「なら、どうして?」
「家族のため」

 アイシャもスノウも大事な家族だ。
 その家族に危害が及ぶかもしれない。

 それなら、僕は全力で戦おう。
 例えレナ達に大義があったとしても、世界の反逆者になったとしても……最後まで、後悔することなく家族のために戦おう。

「だから……」

 僕は立ち上がる。
 そして剣を抜いて、レナに突きつけた。

「君は僕の敵だ」