宴の開催まで、しばらく時間がかかるらしい。
 僕達も手伝おうとしたけど、そんなことはさせられないと断られてしまった。

 なので、時間までの間、散歩をして時間を潰すことに。

「綺麗なところだなあ」

 一人で獣人の里を歩く。
 他のみんなは、ちょっとしたことがあって別行動中だ。

「なんだろう、この植物?」

 里はたくさんの緑に囲まれていて、あちらこちらから動物達や鳥の鳴き声が聞こえてくる。
 植物と他の生き物と共生している証だ。

 ただ綺麗なだけじゃなくて、活気にあふれている。
 将来、こういうところで暮らしたいな。

 ソフィアが隣にいてくれて。
 アイシャが笑っていてくれて。
 リコリスとスノウが一緒にいる。

 うん。

 そんな未来を思い描いたら、ニヤニヤしてしまいそうになった。

「やっほー」

 そんな時、
 能天気な声が響いた。

 その声の主は……

「レナ……?」
「うん、そうだよ。フェイトの運命の相手、レナだよ♪」

 どこからともなくレナが現れた。
 にっこり笑顔で、敵意は感じられない。

 今まで色々とやらかしてきたのだから、僕がいきなり斬りかかるって、考えていないのかな?

「フェイトは、問答無用で攻撃できるほど合理的じゃないでしょ?」
「え? な、なんで……?」
「わかりやすいんだもん」

 ニシシ、と笑われてしまう。

 うー……
 まいった。
 レナと一緒にいると、こちらのペースがいつも崩されちゃうんだよなあ。

「それで、今日はなんの用なの?」
「え?」
「わざわざ、こんなところでわかりやすく一人になる……ボクを誘っていたんだよね?」
「……全部、お見通しなんだ」
「大好きなフェイトのことだからね」

 それなのに、わざわざ姿を見せたということは、どうとでもできる自信があるのだろう。
 あるいは、里を巻き込むのを避けるために、こちらが争いを望んでいないことを見抜いているか……

 たぶん、両方だろうな。

「聞きたいことがあるんだ」
「今、ここで起きていること?」
「それもあるよ。あと……」
「ボク達、黎明の同盟の目的?」
「うん」

 レナは、どこか妖しい視線をこちらに送ってきた。

 艶があり、どこか色っぽくて……
 でも、それに誘われて触れてしまったら、スパッと切れてしまうかのような鋭さも持ち合わせている。

 妙な圧力を感じて目を逸らしたくなってしまうものの、それは我慢。
 じっと見つめ返した。

「いいよ」
「……え、いいの?」
「うん、いいよ」

 レナはにっこりと笑う。

「ボク、すっごく機嫌がいいんだ。だから、今はなんでも教えてあげる。あ、やっぱ今のなし。なんでもは無理だけど、大体のことは教えてあげる」
「それは願ったり叶ったりだけど……なんで機嫌がいいの?」
「フェイトのおかげだよ」
「僕?」

 不思議そうに問い返すと、レナは恍惚とした表情で語る。

「この前、ブルーアイランドでやりあった時、ボクの魔剣を傷つけたじゃん? フェイトにあんなことができるなんて、完全に予想外。まったく想像できなかったよ」
「なんか、剣が傷つけられたのにうれしそうだね」
「そりゃもう、うれしいよ! 大好きな人が、とんでもないことをしてみせた……女として、喜ぶべきところじゃない?」
「うーん」

 ちょっと違うような気もする。
 ただ、話がこじれてはいけないので、否定はしないでおいた。

「だからボク、機嫌がいいんだよねー。だから、色々と答えてあげる。この前のごほうび、っていう感じで」
「じゃあ……」
「ただし」

 レナはニヤリと笑い、指を二つ、立ててみせた。

「質問は二つまで。それ以上はダメ」
「……」
「さあ、フェイトはボクにどんな質問をする?」