準備を終えて家を出る。

 僕とソフィアとクローディアさんは、背中に大きなリュックを背負い……
 そして、アイシャとスノウは小さなリュックを背負う。

 それぞれ旅に必要なもの。
 それと、獣人の里へ持っていくものが詰め込まれていた。

 本当は僕達だけで荷物を運ぶつもりだったんだけど……
 自分達もお手伝いする、とアイシャとスノウが言って聞かなかったので、ちょっとだけ手伝ってもらうことにした。

 リコリス?

 まあ……なにもしていない。
 うん。
 彼女はいつも自由だ。

「じゃあ、行ってくるね」

 父さんと母さんと、ルーテシアに出発の挨拶をする。

「おう、がんばってこいよ」
「体に気をつけてね」

 父さんと母さんは笑顔で送り出してくれて、

「あー……うー?」

 ルーテシアはよくわかっていない様子で、小さな手をこちらに伸ばしてきた。
 その手を握ると、妹も僕の手を握る。

「行ってくるね」
「うあー」

 にっこりとルーテシアが笑う。
 がんばれ、と言ってくれているみたいで、すごくやる気が出てきた。



――――――――――



 スノウレイクを出て、半日ほどが経った。

 まずは街道沿いに歩いて……
 特に何事もなく時間が経過して、日が暮れ始める。

 先頭を歩くクローディアさんが足を止めた。

「みなさん。日も暮れてきたので、今日はこの辺りで野営にしましょう」
「あ、待ってください」

 荷物を下ろそうとするクローディアさんにストップをかけた。

「どうしたんですか?」
「この辺りはやめておいた方がいいと思います」
「え?」
「魔物の気配はないですけど、そういうところって、逆に獣が寄ってくることが多いので。だから、適度に魔物の気配があるところの方がいいです。それでいて、見晴らしの良いところ。そこがベストです」
「……」

 クローディアさんは目を丸くして固まる。

「どうしたんですか?」
「いえ、その……獣人である私よりも野営に詳しいので、びっくりしてしまいました。その知識は、いったいどこで?」
「えっと……色々とあって」

 奴隷にされていた頃に学びました。
 ……なんて言うと引かれてしまうかもしれないので、笑ってごまかしておいた。

 なにはともあれ、少し進んだ場所でテントを設置して、焚き火を起こして、魔物よけの簡易結界を作り……
 野営の準備を終えた。

「ソフィア、リコリスとアイシャとスノウと一緒に荷物番をお願いできる?」
「それは構いませんが、どうして私なんですか?」
「えっと……」
「ソフィアに近寄る命知らずの魔物とか獣、いるわけないじゃん。向こうからしたら化け物がいるようなもんだし。最適の魔物、獣除けね! あはははいだだだだだぁ!!!?」
「リコリス、口は災いのもと、という言葉を知っていますか?」

 調子に乗ったリコリスが、こめかみをグリグリとやられていた。
 あれは痛い……

「じゃ、じゃあ、行ってくるね」
「気をつけてくださいね」

 ソフィアに見送られつつ、クローディアさんと一緒に川の水を汲みにいく。
 食料は色々と用意しておいたけど……
 水は重いため、たくさんは用意していない。
 だから、こうして現地調達が基本だ。

「……フェイトさん」

 水を汲みつつ、クローディアさんが小さな声で言う。

「はい?」
「フェイトさんは、姫様のことをどう思っているのですか?」
「どう、というのは?」
「娘として迎えられたということは理解しております。それを引き裂くつもりはありません。ただ……たまに、不安になってしまうのです。フェイトさんに心変わりが起きて、姫様が悲しむようなことになったら……と。とても失礼な考えなのですが」
「いえ、その心配は当たり前のものだと思います」

 結局のところ……
 人間と獣人の間にある溝は大きい。
 仲良くできたと思っても、表面上だけという場合もある。

 クローディアさんは、僕達を信じてくれているみたいだけど……
 でも、完全に信頼することは難しいのだろう。

 それも当然だ。
 出会ったばかりなのだから仕方ない。
 だから……

「僕達のことを見ててくれますか?」
「え」
「これからの行動で、そんなことは絶対にないって証明してみせますから……だから、近くで見ててほしいです」
「……」
「絶対に裏切りません。今は、言葉だけしか並べることはできませんけど……でも、何度だって、いつでも言えることができます」
「……はい」

 クローディアさんは、どこかスッキリとした顔でこちらを見る。

「ありがとうございます」

 そして、にっこりと笑った。