翌日。
 いよいよ獣人の里へ向かう日が訪れた。

 少し緊張しているのか、いつもより目が早く覚めてしまう。
 時間的には、もう一眠りくらいできそうだけど……

「起きようかな」

 二度寝して寝坊したら大変なので、少し眠いけど、もう起きることにした。

「あっ! おとーさん、おはよう!」

 リビングに移動すると、アイシャとスノウがいた。
 二人共、尻尾をぶんぶんと振りつつ、抱きついてくる。

「うわっ……ととと」
「あう……おとーさん、大丈夫?」
「くぅん」
「うん、大丈夫だよ」

 尻もちをついてしまい、二人が悲しそうな顔に。
 なんてことはないというように、僕はにっこりと笑う。
 それから、二人の頭を撫でた。

「おはよう、アイシャ。スノウ」
「おはよー、おとーさん!」
「オンッ!」

 朝の挨拶をして、立ち上がる。
 それからキッチンを覗く。

「父さんと母さんは……まだ寝ているのかな?」

 早いから仕方ないか。

「そういえば、アイシャとスノウは早起きだね」
「スノウのお散歩をしていたの」
「オフゥ」

 そういえば、スノウはどことなくごきげんだ。
 朝から散歩ができてうれしいのだろう。

「そっか。アイシャは偉いね」
「わたし、えらい?」
「うん。きちんとスノウの面倒を見てて、優しくしているから。すごく良いことだと思うよ」
「えへへ、お父さんに褒められちゃった」

 アイシャの尻尾が、さらにブンブンと横に振れた。
 パシンパシンと尻尾の先がスノウに当たっているが、特に気にしていない様子だ。

 と、その時。

 クキュルルルー。

 なんともかわいらしい音が響いた。
 アイシャが眉を垂れ下げて、お腹に手をやる。

「あぅ……お腹減った」
「くぅーん」

 スノウも空腹らしく、つぶらな瞳をこちらに向ける。

「なら、すぐにごはんを作るよ。ちょっと待っててね」
「おとーさん、ごはん、作れるの?」
「うん、大丈夫。それなりに自信はあるよ」

 奴隷時代、食事当番も担当していた。
 失敗すると拳が飛んでくるため、それなりに上達したと思う。

「えっと……」

 キッチンに立ち、さっそく朝食の準備を始めた。



――――――――――



「はい、どうぞ」
「わぁ♪」
「オンッ!」

 はちみつたっぷりのパンケーキと、レモンを効かせた特製サラダ。
 それと、お腹に優しいコーンスープと牛乳。

 わりと上手くできた方だと思う。
 その証拠に……

「はむはむはむっ、あむ!」
「ガツガツガツ!」

 アイシャとスノウは夢中になってパンケーキを食べていた。
 尻尾がはち切れんばかりに振られている。

 うん。
 うまくいったみたいだ。

「おはようございます」
「おふぁよー……ふぁあああ」

 シャッキリした様子のソフィアと、まだ眠そうなリコリスがやってきた。

「あら? そのごはん……フェイトが作ったんですか?」
「うん。ソフィア達の分も用意してあるよ」
「……ありがとうございます」

 なぜかソフィアは複雑そうな顔だ。
 パンケーキ、嫌いなのかな?

「自分より料理が上手だから、女として複雑に思ってるのよ」
「あっ、こらリコリス! バラさないでください」

 ソフィアとリコリスが追いかけっこを始めて……

「おっ、朝食はフェイトが作ってくれたのか。うまそうじゃないか」
「ありがとう。お母さん、ついつい寝過ごしちゃって……」
「あーうー」

 父さん、母さん、ルーテシアもやってきた。
 ルーテシアは、パンケーキに興味津々らしく、じっと見つめている。
 よだれもちょっと垂れていた。

 とはいえ、赤ちゃんにはちみつはダメだ。
 ルーテシア用に作り直さないと。

「おはようございます」

 クローディアさんも起きてきた。

 みんなが揃い……
 あれこれと他愛のない話をして、笑顔が広がる。

「……こんな日がいつまでも続けばいいな」

 そんなことを思う、穏やかな朝だった。