一週間くらいが経って……
 父さんの知り合いの獣人はいつ来るのかな? と思っていた、その日。

 ようやく、待ち望んだ時がやってきた。

「フェイト、来たぞ」

 裏庭で素振りをしていると、父さんが工房から顔を出して、そう言った。
 それはつまり……

「すぐに用意する!」

 家の中へ戻り、タオルで汗を拭いた。
 顔を洗ってさっぱりとした後、私服に着替える。

 そうやって準備を終えて、急いでリビングへ。

 そして……

「姫様、よくぞご無事で……!」
「うー……?」

 感涙しつつ、アイシャに向かいひざまずく獣人の女性。
 そして、そんな女性にひたすらに困惑するアイシャ。

 そんな光景が飛び込んできて、

「……どういうこと?」

 ついつい、僕はそんなことを言うのだった。



――――――――――



「……さきほどは失礼しました」

 ややあって、女性は落ち着きを取り戻して……
 ひとまず、みんなで話をすることに。

 まずは僕達が自己紹介をして……
 そして、女性の番。

「私は、クローディア・バルネッタと申します。以後、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 僕とソフィアは挨拶をするのだけど……

「うー……」

 アイシャは僕の後ろへ隠れて、尻尾をピーンと立てている。
 いきなりひざまずかれたせいか、とても警戒しているみたいだ。

 ただの勘だけど……
 クローディアさんは、悪い人じゃないような気がした。

 見た目は、二十歳くらいだろうか?
 でも、獣人はとても長く生きている人もいるみたいだから、実年齢はよくわからない。

 背は高く、ソフィアよりも大きい。
 手足はスラリと伸びていて、美術品みたいに綺麗だ。

 そんなクローディアさんには、猫の耳と尻尾が。
 獣人だけど、アイシャとは種族がちょっと違うのかな?

 でも、燃えるような赤髪がとても綺麗で……
 女性に対する感想じゃないんだけど、かっこいい、と思える人だった。

「エイジから聞いているかもしれませんが、私はこの店の常連でして……月に一度くらいの間隔で利用させてもらっていました」
「クローディアは武具を求めているわけじゃなくてな。包丁とか鍬とか、そういったものが欲しい、って言われてたのさ」

 父さんが、そう補足してくれた。

 なるほど。
 父さんは一流の鍛冶職人だから、そういったものを作らせたら右に出る人はいない。

 ちょっと誇らしい気分だった。

「私にはとある目的があったのですが……それが、姫様を見つける、というものでした」
「えっと……その姫様っていうのは、アイシャのこと?」
「はい、そうでございます」

 とても硬い口調だ。
 アイシャの従者……とか?

 でも、そうなると、クローディアさんが言うように、アイシャは実はやんごとなき身分だった……?

「姫様っていうのは、どういうことなのでしょうか? 私達はアイシャちゃんと長いこと一緒にいますが、過去はよく知らず……」

 アイシャと出会い、保護をして、親子になった経緯を説明した。

「そうですか! お二人が姫様を保護して……誠にありがとうございます。このクローディア、感謝の念に絶えません」
「いえ、大したことはしていませんから。それよりも、アイシャのこと、教えてくれるとうれしいです」
「はい、わかりました」

 クローディアさん曰く……

 アイシャは元々、獣人の里で暮らしていたらしい。
 普通の獣人ではなくて、特別な存在である『巫女』。
 故に、姫様と呼ばれていたらしい。

「なるほど」

 アイシャが巫女という話は、以前、ブルーアイランドで聞いた通りだ。
 あの時は可能性の話だったけど……今、それが確信に変わった。

「私達は穏やかに暮らしていたのですが……ある日、人間達が襲いかかってきたのです」
「それって……」
「もしかして……」

 僕とソフィアは顔を見合わせる。
 たぶん、同じことを考えているのだろう。

 獣人の里を襲った人間。
 それは……おそらく、黎明の同盟ではないだろうか?