スノウレイクに戻った後、ホルンさんと別れ、自宅へ。

 父さんと母さんに迎えられて。
 ルーテシアに迎えられて。

 あと、ミントにも迎えられた。
 たまたま遊びに来ていたらしい。

 ミントを見たソフィアは、なにやら笑顔で彼女に話しかけて……
 ミントも笑顔で応対して……

 うん。
 二人は仲が良いのかな?

 そして、僕は……

「ふぅ」

 自室のベッドに横になり、ぼーっと天井を眺めていた。

 疲れた。
 肉体的な疲労だけじゃなくて、精神的な疲労も大きい。

 煉獄竜と戦い、無事に倒すことができた。
 それはうれしいのだけど……

 レナの言葉が気になる。

 僕とソフィアを黎明の同盟に誘う。
 思ってもいなかったことなので、まだ少し動揺していた。

 それと、気になることはもう一つ。

「これ……雪水晶の剣、なのかな?」

 父さんとアイシャとリコリスのおかげで、折れてしまった雪水晶の剣は修理された。
 でも、ところどころが以前と違っている。

 使い勝手は変わらないのだけど、切れ味や耐久力は格段に上がっていた。
 見た目は似ているけど、中身はまったくの別物だ。

「どうして、こんな風になっているんだろう……?」
「それはアイシャのおかげね」
「うわっ」

 いきなりリコリスが現れて驚いた。
 暗殺者じゃないんだから、音を消して忍び寄らないでほしい。

「アイシャのおかげって、どういうこと?」
「あの子の魔力を使って剣を修理したでしょ?」
「うん」
「思っていたよりもあの子の魔力がすごくてねー。必要以上の魔力を受けて、剣が自己進化したみたいなの」
「じ、自己進化……?」

 なにそれ、怖い。

 思わず雪水晶の剣をまじまじと見てしまう。
 自己進化っていうことは、この剣、生きているのかな……?

「例えよ、例え。剣が生きているなんて、そんなことはないわ」
「そ、そうなんだ……」
「でもまあ……ノノカの想いも詰まってるだろうから、ある意味では、生きているのかもしれないわね」
「……」
「色々な人の想いを受け継いでいく。そんな剣なのよ、これは」

 リコリスはしんみりとした表情で言う。

 雪水晶の剣が無事に修理されて。
 それに関連して、友達のことを思い返して。
 色々な想いが胸を巡っているのだろう。

「リコリスは説明をしに来てくれたの?」
「それもあるけど……あと、ちょっとした提案ね」
「提案?」
「剣の名前、新しくフェイトがつけてあげて」
「え」

 唐突な話に驚いてしまう。
 どういうことだろう?

「妖精が作る剣って、持ち主に応じて変わったり、与えられた役目によって変わったりするの。成長する剣なのよね」
「そんなものが作れるなんて、すごいね……」
「ノノカは、人間との友情の証として雪水晶の剣を作った。だから、ずっとあのままだったの。友情の証だから、変わったりしたらまずいからね」
「なるほど」

 だから成長しなかった。
 ずっと同じ形でいて……
 ホルンさんとの友情を示し続けた。

 そんなところだろう。

「ただ、折れちゃって、役目が終わったのよ。で、打ち直して……新しく生まれ変わった。だからその剣は成長したの」
「僕に名前をつけてほしい、っていうのは?」
「その剣は生まれたばかりのようなもので、なにも役目がないのよ。だから、フェイトが新しい主として、役目と名前をあげて」
「僕が……」

 とんでもなく重要な役目だ。

 ノノカが残した剣を、僕があれこれしていいのかな? っていう疑問はあるんだけど……
 でも、リコリスが言っているのだから、そこは問題ないのだろう。

「うーん」

 考える。

 剣の名前と、その役目。
 今、ふさわしいものは……

「……流星の剣、なんてどうかな?」
「悪くないわね。でも、どういう意味なの?」
「剣が新しく生まれ変わったとしても、託された願いとかは引き継いでいると思うんだ。だから、僕はそれをなくしたりしたくなんかない。受け継いでいきたい」

 それだけじゃなくて……

「新しい願いとかも受け止めていきたいと思うんだ。だから……」
「願いを捧げる流星の名前にした、っていうわけ?」
「うん」
「ふーん……いいんじゃない?」

 そっけなく言うリコリスだけど、笑みが浮かんでいた。
 たぶん、認めてくれたんだと思う。

「うん。今日から君は、流星の剣だ」

 よろしく、と心の中で相棒に声をかけた。