煉獄竜は悲鳴をあげて地面を転がる。

 当たり前のことだけど、翼を切り落とされたことなんてないのだろう。
 その激痛に悶え、ありえない現実にパニックに陥っていた。

 でも、まだ油断はできない。

 手負いの虎ほど厄介と言うし……
 もしかしたら、とんでもない切り札を隠し持っているかもしれない。
 焦らず、慎重に追い詰めて……

「ふっふーん、所詮、このリコリスちゃんの敵じゃないわね! さあ、覚悟なさい!」
「ちょっ!?」

 雪水晶の剣を届けに来ただけのはずのリコリスが、なぜか参戦。
 前に飛び出して、魔法を詠唱する。

「リコリスちゃんファイアー!」

 わりと大きな火球が離れて、煉獄竜に直撃。
 それなりの爆発が起きるのだけど……

「グルァッ!!!」
「ひゃあ!?」

 それなり、の攻撃では通用しない。
 怒りを買うだけで、リコリスは慌てて後方に退避した。

「フェイトー! ソフィアー! あと、おっちゃん。そんなドラゴン、さっさとやっつけちゃいなさい!」

 そして、応援。

 えっと……
 本当になにをしているんだろう?

 雪水晶の剣を届けてくれたことはうれしいけど、あまり無茶をしないでほしい。
 下手をしたら、リコリスが狙われるかもしれないのだから。

 決着は……僕達がつける。
 いや。

「おおおおおぉっ!!!」

 ホルンさんがつける。

「このっ!」
「はぁあああっ!」

 僕とソフィアは援護に徹した。
 というのも、片翼を失った煉獄竜が、今まで以上に暴れ始めたからだ。

 ただ、手負いの虎というような脅威は感じない。
 最後の悪あがきという感じで、デタラメに暴れまわっている印象だ。

 あと少し。

「全部持っていけっ!」

 ホルンさんは、ありったけの爆撃剣を投擲した。

 煉獄竜はそれを危険なものと学習して、避けようとするが……
 しかし、そんな隙間がないくらいに、雨あられと剣が降り注ぐ。

 結果、煉獄竜は避けることができず、無数の爆撃をその身に受けた。

 鱗がはがれ、肉が裂ける。
 血が流れて、悲鳴がこぼれる。

「グゥウウウ……」

 どんどん動きが鈍くなってきた。
 その口からこぼれる唸り声も、弱々しくなってきている。

 ここまでくれば、あとは……!

「フェイト!」
「うん! ホルンさん、トドメは任せました!」

 ソフィアの合図で、僕達は一緒に突撃した。

 かなり弱っているものの、未だ煉獄竜の攻撃は激しく、苛烈だ。
 爪を振り回して、尻尾を薙ぐ。
 ブレスも吐く。

 それらを回避しつつ、二人同時に攻撃を加えて……
 そして、僕の雪水晶の剣とソフィアのエクスカリバーが、それぞれ煉獄竜の足の付根を刺す。

 さらに刃を根本まで押し込んだ。
 そして、ぐるりと強引に回転させて、神経を断つ。

「ギァアアアアアッ!!!?」

 これで、ヤツはもうまともに動くことができない。
 防御をすることも逃げることもできない。

 だから……

「「ホルンさんっ!!!」」
「うむ!!!」

 ホルンさんが真正面から駆ける。
 そうすることで、あえて煉獄竜の注意を自分にひきつけているみたいだ。

 ホルンさんの様子から、なにかただならぬものを感じ取ったのだろう。
 煉獄竜は彼を第一の標的として、ブレスを放つ。

 ……でも、それが命取りになる。

「それを待っていたぞ!」

 それは、かつてノノカが手に入れたという宝物。
 どんな攻撃も一度だけ跳ね返すという、魔法の鏡。

 それによって、ブレスは正反対に跳ね返された。
 煉獄竜は自分の攻撃をまともに浴びることになって……

「これで……終わりじゃあああああっ!!!」

 そして、ホルンさんの渾身の一撃が煉獄竜の瞳を貫いた。