「あっ……」

 壁のように巨大な尻尾が迫る。

 その動きはやけにゆっくりだ。
 でも、僕の動きもゆっくりで、速く動くことができない。

 これは……まずい?

 死……

「フェイトっ!!!」
「うわっ!?」

 突然、ふわっと体が宙に浮いた。
 いや、ソフィアに抱えられていた。

 そのまま大きく跳んで、着地。
 地面に下ろされた。

「大丈夫ですか!?」
「う、うん……ありがとう」
「よかった……くっ」
「ソフィア!?」

 軽くよろめいてしまうソフィアを慌てて支えた。

 見ると、利き手である右腕に裂傷が。
 綺麗な手が血で濡れてしまっている。

「もしかして……今、僕を助けた時に……」
「私なら大丈夫です」

 そう言うものの、強がりであることは明らかだ。

「くっ……!」

 自分が情けない。
 彼女の力になるどころか、足を引っ張ってしまうなんて。

 でも、後悔するのは後だ。
 反省も後だ。

 今は戦闘に集中しないと。

「ソフィアは、ポーションとかで治療を。その間、僕が時間を稼ぐから」
「ですが……」
「大丈夫。やってみるよ!」

 返事を待たないで突撃をした。

 さきほどよりも速く。
 そして、深く深く集中して……

 全力全開。
 体も心も魂も、全てを振り絞るような感じで戦う。

「おおおおおおおぉぉぉっ!!!」

 戦う。
 戦う。
 戦う。
 剣を振り、大地を駆けて、壁を蹴り跳躍して、再び剣を振り、突き出して、薙いで、払い、叩き、打ち上げ……
 ありとあらゆる攻撃を叩き込んでいく。

「これは……」

 わずかにだけど、ソフィアの驚くような声が聞こえてきた。
 ただ、僕自身も驚いていた。

 まさか、煉獄竜と互角に渡り合うことができるなんて。

 たぶん……
 覚悟が決まったんだろう。

 絶対に倒すと意気込んでいた。
 負けられないと決意を固めていた。

 でも、いざ煉獄竜と相対したら、情けないことにその迫力に飲まれてしまった。
 だから、自分でも気づかないうちに動きが鈍くなっていて、さっきのようなミスをしてしまって……

 だけど、そんなことはもう終わり。
 絶対に同じ過ちは繰り返さない。

 そんな覚悟が、僕の力を限界を超えて高めてくれているのだと思う。

 もっと強く。
 もっと速く。

 これ以上、ソフィアを傷つけさせない!
 スノウレイクも襲わせたりなんかしない!
 ホルンさんとノノカの最後の依頼も果たしてみせる!

 あれもこれもと、欲張りかもしれないけど……
 でも、今だけは!

「ガァッ!!!」

 煉獄竜の意識が完全にこちらへ向いた。
 ホルンさんも攻撃をしかけているのだけど、脅威度は僕の方が高いと判断したのだろう。

 でも、それは大きな間違いだ。

「ふん。竜といえど、所詮は獣。これで食らうがいい!」

 ホルンさんが剣を投擲した。

 剣は、どこでも買えるような安物だけど……
 その先端に特製の爆薬がくくりつけられている。

 剣がドラゴンの鱗を叩き、その衝撃で起爆。
 ゴガァッ!!! と洞窟全体を震わせるようなほど、激しい衝撃と轟音が撒き散らされた。

 一度だけじゃない。
 二度、三度とホルンさんは剣を投擲して、その度に大爆発が起きていた。

 至近距離で上級魔法を連発されるようなものだ。
 いくら竜とはいえ、ひとたまりもない。

 もちろん、これで倒せるとは思っていないけど、

「グゥウウウ……」

 煉獄竜の勢いは明らかに衰えた。
 しっかりとダメージを負っている様子で、動きが目に見えて鈍くなる。

 攻めるなら今だ!

 僕はさらに前に出て、剣を全力で振り下ろして……

 ギィンッ!

「え?」

 剣が折れた。