「ぬぅおおおおおっ!!!」

 ブレスを恐れることなく、ホルンさんが前に出た。
 そんなホルンさんに目標を変更して、煉獄竜が再びブレスを放つ。

 極大の炎。
 目を灼くかのような強烈な閃光。

 それでも……

「おおおおおぉっ!!!」

 ホルンさんは止まらない。

 直撃は避けた。
 しかし、わずかながらかすってしまっている。

 ホルンさんが身につけている鎧がみるみるうちに焦げて、一部は溶け始めていた。
 そんな力にさらされているホルンさんは、相当な激痛を受けているだろう。

 それでも足を止めず、煉獄竜の懐に潜り込む。

「むぅんっ!!!」

 ホルンさんは、背中に背負っていた大剣を手に取り、そのまま振り抜いた。
 己の身長ほどもある巨大な剣だ。

 その威力は破格だ。
 強靭な鱗を斬ることは敵わないが、叩き潰すことには成功した。

「これでも……くらぇえええええいっ!!!」

 ホルンさんは、再び大剣を叩き込む。
 剣としてではなくて、棍棒のように扱い、刃の腹で潰れた鱗を叩いた。

 ギィンッ! という音と、煉獄竜の悲鳴が重なる。
 さらに……

 ゴガァッ!!!

 あらかじめ刃に爆薬を仕込んでいたらしく、大剣が爆発した。

 業火と衝撃。
 そして、至近距離で撒き散らされる鉄片の嵐。
 さすがの煉獄竜も、これにはたまらない様子で、身をよじり、苦しそうにしている。

 効いている。
 でも……

「ホルンさん、大丈夫ですか!?」
「う、む……なんのこれしき」

 自爆技のようなものだ。
 ホルンさんもそこそこのダメージを負ってしまい、あちらこちらから血が流れていた。

「早く手当てを……」
「そんなヒマはない」
「で、でも……」
「今が攻め時じゃ。わかるな?」
「……わかりました」

 ホルンさんの目を見て、説得は不可能と諦めた。

 ホルンさんは殉教者のような目をしていた。
 刺し違えてでも煉獄竜を倒そうと、覚悟を決めているのだろう。

 そんなホルンさんの意思を曲げさせることはできない。
 彼の生き方……今までの想いを全て否定するようなことになるからだ。

 なら……

「援護します!」

 ホルンさんが刺し違えることのないように、全力で援護をする。
 僕にできることをする。

 それだけだ。

「フェイト、一緒にいきますよ!」
「うん!」

 最初に、ソフィアが前に出た。
 文字通り、目にも留まらぬ動きで煉獄竜を翻弄する。

 さすがの煉獄竜も、ソフィアの神速を追いきれないようだ。
 ブレスも連発できるわけじゃなくて、温存している様子で、手足や尻尾を振り回している。

 荒れ狂う嵐が意思を持ったかのようだ。
 巨大な岩が簡単に砕け、地震が連続しているかのように大地が揺れる。

 それでも、ソフィアは攻撃の手を緩めない。
 むしろ、さらに加速させていく。

 斬る、斬る、斬る、斬る、斬る……斬るっ!!!

 一撃一撃のダメージは小さいけれど、着実に煉獄竜の体力を削っていった。
 そして僕は……

「このっ!」

 ソフィアより圧倒的に手数が少ないものの、攻撃を加えていく。

 ソフィアによって傷つけられた場所に、再び斬撃を送り込む。
 あるいは、オイルの詰まった革袋を足元に放り、煉黒竜の動きを阻害する。

 悔しいけど、今の僕にできることは少ない。
 圧倒的に力が足りていない。

 でも、それで腐っても仕方ない。
 僕は、僕にできることを。
 全力で、ありとあらゆる手を使い、ソフィアとホルンさんのサポートをするだけだ。

「グァアアアアアッ!!!?」

 度重なる攻撃に音を上げるように、煉獄竜は悲鳴を響かせる。
 こころなしか動きが鈍ってきているように見えた。

 よし。
 この調子で攻撃を重ねていけば……

 そう思ったことが油断だったのかもしれない。

「フェイトっ!?」

 ソフィアの悲鳴。
 気がつけば、煉獄竜の尻尾が目の前に迫っていた。