「よし」

 一階の工房に父さんの姿があった。
 仕事着に着替えて、気合を入れるはちまきを頭に巻いている。

 その後ろにリコリスとアイシャが。
 二人の姿はいつも通りだけど、表情が違う。
 まっすぐに前を向いていて、絶対に剣を修理するという、強い決意が感じられた。

「それじゃあ作業を始めるぞ。俺が剣を打つから、妖精の嬢ちゃんは、指示したタイミングで魔力を注ぎ込んでくれ」
「任せなさい!」
「アイシャちゃんは、妖精の嬢ちゃんの魔力がなくなってきたら補給してくれ」
「がんばる」

 三人はやる気たっぷりだ。

 でも、気合が入りすぎているということはなくて……
 ほどよい感じに緊張して、ほどよい感じに息を抜いている。

 うん。
 これなら、きっとうまくいくだろう。

 僕は雪水晶の剣の復活を確信するのだけど……
 事態は思わぬ方向に転がっていく。



――――――――――



「……時間がない?」

 剣の修理が始まって数時間したところで、ホルンさんが尋ねてきた。
 僕とソフィアで対応をして……

 そして、煉獄竜の目覚めが近いと告げられた。

「封印の状態を観測する魔道具を置いていたのじゃが……それによると、封印はあと半日で解けてしまうじゃろう」
「そんな……!?」
「どういうことですか? 封印は頑強なもので、まだまだ問題はないという話だったと思いますが」
「そう、問題はなかったはずなのじゃが……しかし、何度も確認したから間違いない。このままだと、半日ほどで封印が解けてしまうじゃろう」

 いったい、どうしてそんなことに……?

 なにが起きているのか。
 色々と考えてみて……

「「……もしかして」」

 ソフィアとピタリと声が重なる。

 本来ならありえないことを引き起こしてしまう。
 そんなことができる連中に心当たりがある。

「『黎明の同盟』……かな?」
「可能性はあると思います。また、あの泥棒猫でしょうか……?」

 今回、彼らの影はなかったはずなのだけど……
 でも、不思議とこの悪い予感は間違っていないと思えた。

 またレナがなにかやらかしているのだろうか?
 そう思えてならない。

「そういうわけじゃから、儂はすぐに出発しようと思う。お主らはどうする?」
「それは……」

 雪水晶の剣の修理は終わっていない。
 終わるのを待っていたら、先に煉獄竜が復活してしまうだろう。

 それなら……

「僕も行きます」
「フェイト!? ですが、剣は……」
「ソフィア、代わりの剣を貸してくれないかな?」
「……わかりました。確かに、こうなった以上、のんびりと修理を待っているわけにはいきませんね」

 できることなら、雪水晶の剣で戦いたい気持ちがあった。

 人と妖精の絆の証。
 その剣で戦えば、色々な想いを乗せることができるだろう、って。

 でも、この状況で無理は言えない。
 被害を出さないことが最優先で……
 今は煉獄竜の討伐だけを考えよう。

「では、すぐに準備をしてくれ。儂は街の入口で待っておるぞ」
「わかりました」

 ホルンさんを見送り……
 それから、僕とソフィアは互いの顔を見る。

「やることはたくさん」
「すぐに済ませてしまいましょう」

 互いに小さく笑みを浮かべるのだった。