「……と、いうことになったんだけど……」

 宿へ戻り、ソフィアに事情を説明した。

「……」
「……」

 ソフィアはジト目だった。
 リコリスもジト目だった。

「?」

 アイシャはよくわかっていないらしく、小首をコテンと傾げている。
 そんなアイシャの足元で、スノウが楽しそうにじゃれついていた。

「……フェイト」
「は、はい!?」

 ソフィアが妙に怖い。
 ついつい背筋をピンと正してしまう。

 ソフィアは変わらずに僕へジト目を送り……
 ややあって、はぁとため息をこぼす。

「そういう大事なことは一人で決めないで、私達に相談してほしかったのですが……まあ、仕方ないですね。そういう話を聞いて、すぐに動いてしまうくらい、フェイトは優しいのですから」
「えっと……?」
「ま、次からはちゃんと考えなさいよ」

 よかった。
 二人は怒っていたわけじゃなくて、呆れていただけらしい。

 ……あれ?
 それはそれでダメなのかも?

「話は理解しました。煉獄竜なんてものがいるのなら、放っておくわけにはいきません。フェイトが言っていたように、なにかしらの弾みで封印が解けたら、とんでもないことになりますからね。今のうちに倒しておくべきです」
「それに、そいつがノノカの冒険を台無しにしてくれたんでしょ? なら、野放しになんてしておけないわね。ふざけたことをしてくれた礼、たっぷりしないと」

 リコリスの目は怒りに燃えていた。

 親友の仇を取ることができる。
 その想いが一気に膨れ上がっている様子だった。

「よかった」

 一人で決めてしまったことはよくないことだった。
 でも、二人は協力を約束してくれた。

 うん。
 改めて二人に感謝を。

「でもさー」

 いつもの調子に戻り、リコリスが言う。

「フェイトはどうやって戦うの? 今、剣がないじゃん」
「……あ」

 しまった。
 雪水晶の剣は、まだ修理前だった。

「出発は決まっているのですか?」
「ホルンさんは明後日、って言っていたけど……」

 絶対に間に合わない。

「そうなると、日をずらしてもらうか、代わりの剣を用意するしかありませんね」
「日をずらすのは難しいかも……」

 煉獄竜は月の満ち欠けで力が変わると言われている。
 新月になると力を失い、満月になると100パーセントの力を発揮することができる。

 そして、明後日が新月だ。

 その日を逃しても、一ヶ月待てば再び新月はやってくるけど……
 死も覚悟したホルンさんに、僕の都合で一ヶ月も待ってくれなんて、とてもじゃないけど言えない。

「仕方ありませんね。私の予備の剣を貸して……」
「いいや、それには及ばねえ!」
「父さん!?」

 いつからいたのか、父さんが部屋に入ってきた。

「友のために命を賭ける……くううう、泣かせる話じゃねえか!」
「話を聞いていたの?」
「悪いな。そんなつもりはなかったんだが、話が聞こえてきて、つい」

 父さん……僕らだからいいものの、他の人にそれをやらないでね?
 デリカシーが皆無で、下手したら訴えられるからね?

「そういうことなら、明後日までに剣の修理をしてやるよ」
「え? できるの?」
「ああ、問題はねえさ。今夜、準備をして、明日作業をする。そして、明後日の朝に仕上げをする。問題はねえ!」

 父さんは嘘を吐かない。
 そんな父さんが言うのなら、本当に可能なんだろうけど……

「リコリスとアイシャは平気なの?」

 問題は、父さん一人で全ての作業ができるわけじゃない、というところだ。
 リコリスとアイシャの協力が必須だけど、二人は……?

「ノノカの仇討ちのためなら、あたしだって、できることはなんでもやるわ」
「わたし……がんばる」

 二人はやる気たっぷりだった。

「フェイト」
「なに、父さん?」
「ただ修理するだけじゃなくて、前以上の最高の剣にしてやる。だから、お前はお前にしかできないことをやれ」
「……うん!」

 父さんの息子でよかった。
 この時、僕は心底そう思った。