あれから一週間が経った。

 たくさん体を動かして、しっかりと休憩をして、再び体を動かす。
 その繰り返し。

 身体能力の高いアイシャでも、最初はとても疲れた様子だったけど……
 トレーニングを繰り返すうちに慣れてきたのか、最近はわりと余裕を見せていた。
 激しい運動に体が慣れてきた証拠だろう。

 この様子なら、あと数日もすれば剣の修理を始められるかもしれない。
 そんな期待を抱きつつ、今日もトレーニングに励んだ。



――――――――――



「すみません。この前依頼を出した、フェイトっていいますけど……」
「はい、フェイト・スティア―トさんですね? 依頼の方、完了しています。こちら、特注の研磨剤と錬精水。それと、黒鉄鉱です」
「ありがとうございます」

 依頼料を払い、頼んでいた物を受け取る。

 どれも剣の修理に必要な材料だ。
 いくらか入手難易度が高い素材があったため、ギルドに依頼を出しておいたのだ。
 安くない依頼料だけど、雪水晶の剣を修理するためなら惜しくない。

「あれ?」

 家に帰ろうとしたところで、ホルンさんの姿を見つけた。
 そういえば、剣の修理に夢中になるあまり、あれから話をしていない。

「こんにちは」
「おぉ、フェイトか。久しぶりじゃな」
「すみません。剣の修理の準備で、色々と忙しくて……」
「なに、謝る必要はないぞ。雪水晶の剣が元通りになることは、儂も願うところ。むしろ、手伝えなくてすまんな」
「いえ、そんな! ホルンさんが謝ることじゃ……」
「……儂には、どうしてもやらなくてはいけないことがあってな」

 そう言うホルンさんは、とても険しい表情をしていた。

 普段の穏やかな雰囲気はどこへやら。
 抜き身の刃のように鋭く、触れることをためらわせる。

 でも、同時に思いつめているような感じもして……

 放っておいたらいけない。
 そんなことを強く思い、不躾なことだと自覚しつつも口を開く。

「その、やらないといけないこと、っていうのは……聞いてもいいですか?」
「……面白い話ではないぞ?」
「それでも、お願いします」
「……」
「……」

 視線と視線が真正面からぶつかる。
 すごい圧で、ともすれば目を逸らしてしまいそうになる。

 それでも我慢して……

「ふぅ」

 やがて、ホルンさんは小さな吐息をこぼした。
 それと同時にプレッシャーも消える。

「こう言ってはなんじゃが、フェイトは意外と気が強いのじゃな」
「そんなこと、初めて言われました……」
「まあ、そうでなければあの剣聖と一緒にいることなどできぬか……いいじゃろう。明るい話ではないが、質問に答えよう」
「ありがとうございます。それと、ごめんなさい」

 話をしてくれるお礼と。
 ズカズカと心に踏み込んだ謝罪をした。

 ホルンさんは小さく笑い、軽く手を振る。

「よい。儂は気にしておらん。それよりも、儂の目的じゃが……」
「は、はい」
「……ノノカに託された依頼を果たすことじゃ」
「託された依頼……ですか」
「うむ。儂とノノカの最後の冒険はこの近くでな……そこで、ヤツに出会ったのじゃ」

 当時を思い返しているらしく、ホルンさんはギリッと奥歯を噛む。

「……当時、儂とノノカはとある素材の採取という依頼を請けていた。遠出をしなければいけなかったが、それほど難しいものではなくて、問題なく終わると思っていたが……しかし、ヤツに……煉獄竜に出会ったのじゃ」
「なっ……!?」

 思わぬ単語が飛び出してきたことに、僕は驚き、言葉を失ってしまう。

 煉獄竜。
 Sランクに指定されている魔物だ。

 その能力は圧倒的の一言に尽きる。
 相対した者はほとんど生き残っていないため、詳細な記憶はないのだけど……
 噂によると、一匹で国を一つ、滅ぼすことが可能だとか。
 その噂が決して誇張されたものではなくて、むしろ過小評価されているとか。

 ……そんな話を聞く。

「すみません。こんなこと聞くのはなんですけど、それは本当に煉獄竜なんですか……?」
「うむ、間違いない。儂も自分の目を疑ったが……あれは間違いなく煉獄竜じゃったな。力もその名にふさわしいものじゃった」
「そう、ですか……」

 まさか、そんなとんでもない魔物に遭遇したなんて。

「ヤツのせいで依頼は失敗。そればかりではなくて、多くの森が焼けて、草花も炭になってしまった。そのことを、ノノカは大層悲しんでおったよ」
「……」
「そして、儂に頼んだ。いつか、あいつをやっつけて、とな」
「……」

 その気持ちはよくわかる。
 放っておけばい、そのままになんてしておけない。

 ノノカはもういないのだけど……
 だからこそ、彼女の最後の願いを叶えてあげたいと思うのだろう。

「……あれ?」

 ふと、気がついた。

「今度こそ依頼を果たす、っていうことは……もしかして、この近くに煉獄竜が?」
「……うむ」

 ホルンさんは重々しく頷くのだった。