雪水晶の剣を僕が持っていてもいいのか?
 その問題について、完全に悩みが晴れたわけじゃない。

 でも、ミントのおかげで少しだけ迷いが消えた。

「じゃあ、私、そろそろ……」

 「家に帰るね」と、言おうとしたのだろう。
 でも、その言葉が出てくるよりも先に扉が開いた。

 姿を見せたのは……

「フェイト、これからのことについて……なの、ですが……」

 ソフィアだった。

 僕を見て、次いで、ミントを見て。
 柔らかな顔が、みるみるうちに固くなっていく。

「……あら、あらあらあら」

 ソフィアがにっこりと笑う。
 ものすごくにっこりと笑う。

 怖い。
 顔は笑っているはずなのに、目は笑っていない。

「……あっ」
「やば!?」

 後ろからアイシャとリコリス、スノウが現れるのだけど……
 ソフィアを見るなり反転して、ダダダッ! と逃げてしまう。

 娘に怯えられているけど、いいの?
 なんてツッコミを入れる雰囲気じゃない。

「フェイト、なにをしているのですか?」
「な、なにも!? 少し話をしていただけで、やましいことはしていないよ!」
「うんうん、幼馴染の話をしていただけだよねー」
「フェイトの幼馴染は、この私なのですが!」
「えー、でも、私もフェイトの幼馴染なんだけどー」

 バチバチと、二人の間で火花が散ったような気がした。

「フェイトは、私と一緒にお話をして楽しかったよねー?」
「っ!?」

 ミントが左腕に抱きついてきた。

 ぎゅうっと、体を押し付けるようにして……
 そんなことをしているせいか、柔らかい感触が……

「私と一緒の方がいいですよね!?」
「っ!?」

 反対側にソフィアが抱きついてきた。

 やはり、ぎゅうっとしていて……
 柔らかくてふくよかな感触が……

「フェイトー」
「フェイト!」
「えっ、いや、その……」

 僕はどうすれば!?
 というか、普通に話をしていただけなのに、どうしてこんなことに!?

 いや、うん。

 わかってはいるんだ。
 ソフィアは嫉妬してくれていて、ミントは、それを見てからかっているだけ、っていうことは。

 でもでも、こんな修羅場っていう状況は初めてで……
 混乱して、どうしていいかわからない。
 思考がぐるぐるになって、うまい言葉が出てこない。

「おい、フェイト」

 進退窮まったところに現れた救世主は、父さんだった。

 ソフィアとミントに挟まれた僕を見て、呆れるようなため息。
 それから、こちらにやってきて……

「なに遊んでやがる」
「あいた!?」

 げんこつをくらってしまう。

「これからについて話をしたい。遊んでないで工房に来い」
「ぼ、僕は遊んでいるわけじゃ……」
「いいな、早くしろよ」

 言うだけ言って、父さんは部屋を後にしてしまう。

 残された僕達は……

「えっと……そういうわけだから」
「……命拾いしましたね」
「……なんのことかなー」

 二人は離れてくれるものの、未だに笑顔で睨み合っていた。
 勘弁して。



――――――――――



 工房に移動すると、リコリスの姿があった。
 その隣に父さんがいて、僕達がとってきたミスリルを見ている。

「……」

 その表情は真剣そのもの。
 『職人』としての父さんの顔を久しぶりに見て、なんだか、とても懐かしくうれしいと思った。

「おう、来たか」
「さきほどは失礼しました」

 一緒に来たソフィアが軽く頭を下げた。

 ちなみに、ミントは自分の家に帰った。
 もう遅い時間だから、と言っていたのだけど……
 一通りソフィアをからかい、満足したのだろう。

 のんびりしてて、ふわふわしてて……
 そんな女の子に見えるのだけど、実は、ミントはいたずら好きなのだ。

「こいつについての話をするぞ」

 父さんは、折れた雪水晶の剣を指先でコンコンと叩いた。

「修理できそう……?」
「できる、と言いたいが……ちと厄介なことになった」