塔の攻略を始めて、二日目に突入した。

 当初の予定では、踏破に三日以上はかかると踏んでいたのだけど……
 ホルンさんが加わったおかげで順調に進み、最上階へ到達した。

 最上階は難易度が高くて……
 たくさんの魔物に、たくさんの罠。
 攻略に手こずったものの、それでも最深部に到達することができた。

「……あれがこの塔のボスみたいですね」

 ちらりと、通路の角から様子を見るソフィア。
 その視線の先には、人骨の魔物、巨大なスケルトンが。

 三メートルくらい、かな?
 手は四本で、それぞれに血に濡れた剣を握っている。
 あれで多くの冒険者を倒してきたのだろう。

「グレータースケルトンですね。死神と同じく、アンデット系の上位の魔物です」
「厄介な相手じゃな」

 知らない魔物だけど……
 二人の緊張した顔を見るだけで、どれだけの強敵なのか理解できた。

 ソフィアは一流の剣士で、ホルンさんは一流の冒険者だ。
 その二人が警戒するということは、相当に強いのだろう。

「ふふんっ、なによあの骨ころ。バラッバラにして、わんこのおもちゃにしてやるわ!」
「勝手をしたらどうなるか……ふふふ」
「ヒィ!?」

 勝手に突撃しようとしたリコリスに、ソフィアは微笑んでみせた。
 リコリスがびくりと震えて、青い顔になる。

 毎回思うのだけど……
 リコリスの辞書に『学習』の二文字はないのかな?

「ソフィア、あいつはどんな魔物なの?」
「そうですね……魔物でありながら剣の名人で、その身体能力はAランクの冒険者を軽く超える。下手したらSランクに達しますね」
「そんなに……」
「その上、あの大きさ。そして、四つの剣。剣の名手の巨人を四体同時に相手にすると思ってください」
「それは、また……」

 考えただけで気が重くなる。

 とはいえ、目的のミスリルは、おそらくあいつが守る通路の向こうにある。
 ここで引き返すという選択はない。

「さて、どうしたものでしょうか……」
「うーむ……」

 作戦に迷っている様子で、ソフィアとホルンさんは難しい顔に。

 でも……
 そこまで迷うことかな?

「僕に考えがあるんだけど」



――――――――――



「リコリス、お願い」
「オッケー。リコリスちゃん、ミラクルマジカルラッキーパワー、フィジカルブースト!」

 リコリスにお願いして、一時的に身体能力を引き上げる魔法を使ってもらう。
 体が羽のように軽くなり、熱い力が湧いてきた。

「はぁっ!!!」

 僕は、真正面からグレータースケルトンに突撃した。

 かなりの加速だけど、それでも、ヤツが気づく前に攻撃……というわけにはいかない。
 グレータースケルトンは僕に気づいて、四つのうち二本の剣を構えた。

 僕だけじゃなくて、他の敵の存在を警戒しているのだろう。
 魔物にしては知能が高く、賢いヤツだ。

「ぐっ!」

 二本の巨大な剣がわずかにタイミングをずらしつつ、交互に振り下ろされた。

 一撃目は回避。
 二撃目は剣を斜めにして、受け流す。
 うまくやれたと思うのだけど、それでも手が痺れてしまう。
 なんてバカ力だ。

「うむ、よくやった!」

 影からホルンさんが飛び出してきた。
 風のように速く動いて、グレータースケルトンを斬りつける。

 しかし、浅い。
 いくらかのダメージは与えたものの、決定打には至らない。

「むんっ!」

 ホルンさんは気合の入った声と共に、グレータースケルトンの反撃を防いでみせた。
 なんと、二本の剛剣を一本の剣で受け止めている。

 すごい。
 こんな怪物と真正面から激突して、押し負けず、耐えるなんて。
 並大抵の技術、身体能力じゃないとできないはずだ。

「くっ」

 僕もホルンさんも防御に徹することになり、攻撃の手が止まるのだけど……
 それは、グレータースケルトンも同じ。
 四本の剣を全て使い切り、その身を守るものはなにもない。

 だから、これで終わり。

「神王竜剣術、参之太刀……」

 ソフィアが一歩を踏み出した。

「紅っ!!!」

 爆発的な加速で、一気にグレータースケルトンの目の前に。
 その勢いを乗せた突きを放ち、グレータースケルトンの顔をまっすぐに貫いた。

「ギィヤアアアアアッ!!!?」

 グレータースケルトンは悲鳴をあげて、剣を落として、よろめいて……
 そして、灰となって消滅した。

 うん。
 僕達の勝利だ。

 僕とホルンさんが足止めをして、一番火力のあるソフィアが一気に倒してしまう。
 シンプルな作戦だけど、うまくハマったみたいだ。