ホルンさんは、若い頃から冒険者をやっていたらしい。
 それこそ、僕と同じくらいの歳で活躍をしていたという。

 剣聖に至るほどではなかったものの、その下の『剣豪』の称号を得ていたとか。

 弱気を助けた悪をくじく。
 正義の味方を地でやっていたホルンさんは、各地を旅しつつ、色々な人を助けてきたという。

 そんなある日、ホルンさんは妖精と出会った。

 とある商人の館の護衛を引き受けたところ……
 そこで、結界に囚われている妖精を見つけたのだ。

 その容姿などから、妖精は人間に乱獲された。
 囚われた妖精は観賞用として閉じ込められることも多く……
 その商人も、妖精を囚え、愛でていたという。

 それを見たホルンさんは激怒。
 結界を破壊して、妖精を解放した。

 商人は激怒して、さらに冒険者ギルドからも厳しい罰を受けることになったものの、後悔は一切していないという。

 そして……

「なぜか、その妖精は儂は懐かれてしまってのう」

 なぜか、って……
 そこまでしたのなら、恩義を感じても不思議じゃないと思う。

 でも、ホルンさんからしたら、大したことはしていないのかもしれない。
 人間でも妖精でも関係ない。
 困っている人がいたら助ける、ただそれだけ。

 すごくかっこいいと思った。
 僕もこんな人になりたい。

「それから、しばらく妖精と一緒に旅をしたのじゃ。なんでも、彼女には大事な友達がいるそうでな。その友達がいる場所まで送り届けたのじゃよ」
「あーーーっ!!!?」

 突然、リコリスが大きな声をあげた。
 耳がキーンとして、思わず顔をしかめてしまう。

「いきなり、どうしたんですか?」
「思い出した、思い出したわ! このおっちゃん、確かに、ノノカを連れてきたわ!」
「ノノカ?」
「あたしの友達の名前よ! なんで忘れるわけ!?」

 忘れるもなにも、たぶん、今初めて聞いたんだけど……

「それはともかく」

 ごまかされた。

「ある日、行方不明になっていたノノカが、見知らぬ人間と一緒にやってきたの。あたしは思ったわ。このおっちゃんが誘拐犯だ、ってね」
「なんで、そうなるの……?」
「短絡的すぎませんか……?」
「そして、あたしは、ウルトラミラクルハイパーリコリスちゃんキックをかましてやったわ!」
「ふぉっふぉっふぉ、あの時は痛かったのう。首が折れるかと思ったわい」

 笑い話ではないような……

「まあ、その後誤解は解けて、しばらく仲良くしたのよ」
「妖精と一緒に過ごすなんて、とても貴重な経験をさせてもらったよ」
「ふふんっ、おっちゃんはあたしの魅力にメロメロだったわね!」
「そうじゃのう、嬢ちゃんはかわいいからのう」
「ふへへーん!」

 リコリスが胸を張り、張り……
 そのまま、コテンと後ろにコケた。
 空中で転がるなんて、器用な真似をするなあ。

「そうして、儂はしばらくの間、二人の妖精と過ごしたのじゃ」
「なるほど」

 妙なところで縁が繋がっている。
 改めて、縁っていうものは不思議なものだなあ、と思った。

「ただ、いつまでも好意に甘えてはおれぬからな。旅立つ決意をしたのじゃが……そうしたら、嬢ちゃんの友達、ノノカ嬢ちゃんが、お礼に剣を作ってくれたのじゃよ」
「それが雪水晶の剣……?」
「うむ。とても見事な剣でな。このようなものをもらうわけにはいかぬと、しばらくの間、借りるだけにしておいたのじゃ」
「なるほど」
「それに、ただ強い剣というだけではないようでな」
「え?」

 それは、どういう意味だろう?
 武器としてではなくて、他になにか意味を持っているのだろうか?

 僕の疑問を察した様子で、ホルンさんは言葉を続ける。

「知っているじゃろうが、妖精が作り上げた武具はとても貴重なものじゃ。とても強い力を持ち、美術品として鑑賞できるほどの美しさを持つ。売れば、十年は遊んで暮らせるじゃろうな」
「でも……本当の価値はそこじゃない」
「ほう」

 思わずこぼれ出た言葉を聞いて、ホルンさんはおもしろそうな顔に。
 続きを、と視線で促されて、僕は思ったままを口にする。

「妖精は、人間に乱獲された過去がある。だから、人前から姿を消して、ひっそりと暮らしていた。仲は最悪」
「うむ」
「それなのに、人間のために妖精が剣を作った。それは……人間と妖精の友好の証にもなるんじゃないかな、って思いました」
「その通りじゃ」

 ホルンさんは昔を懐かしむように、遠い目をして言う。

「ノノカ嬢は、作りあげた剣を儂に渡す時、こう言った。これは私達の友好の証ですよ……と」
「……ノノカ……」

 友達の話を聞いて、リコリスがちょっと涙ぐんでいた。
 やっぱり、まだ色々と思うところがあるみたいだ。

「そうですか……雪水晶の剣は、人間と妖精の友好の証なんですね」
「うむ」

 そんな剣を、ホルンさんはどうして手放してしまったのか?
 まだ、いくらかの疑問が残っていた。