翌日。
 家族で朝食を食べて……
 そして、準備を整えた後、僕達はダンジョンへ移動した。

 父さんの言うダンジョンは、村から一時間ほどのところにあった。

 比較的損傷の少ない遺跡。
 その一角にダンジョンの入り口がある。

「地下に潜るのではなくて、塔を登るのですね」

 雲を貫くような大きな塔が見えた。
 縦に長いだけじゃなくて、横も広い。
 ちょっとした城に見えるくらいだ。

「ふーん、珍しいダンジョンね。これ、かなり昔のものよ」
「わかるの?」
「あたしを誰だと思っているの? 超絶天才ミラクルマジカル妖精リコリスにょ!」

 噛んでしまったので、色々と台無しだ。

 ちなみに、アイシャとスノウはいない。
 旅の最中ならともかく、今は実家がすぐ近くにある。
 できるだけ危険からは遠ざけたいので、父さんと母さんに預かってもらっていた。

 アイシャが巫女かもしれなくて、それで狙われるという可能性もなくはないのだけど……
 父さんはそこら辺の冒険者よりも、よっぽど強い。
 安心して二人を任せることができる。

「おじさまにいただいた情報によると、五階層みたいですね。ただ、一つ一つの階が広く、目的のミスリルがどこにあるかわからない……厄介ですね」
「最悪、塔の端から端まで歩き回らないといけないね」

 塔はかなり広そうだ。
 全部を踏破するとなると、一週間くらいかかってしまうかもしれない。

 そうなる前にミスリルを見つけたいところだけど……
 こればかりは運だよりになってしまう。

「安心しなさい。このミラクルワンダーラッキガール、リコリスちゃんがいれば、ミスリルなんてすぐに見つかるわ」
「あはは、期待しているよ」
「ふふん、任せなさい! じゃあ、いくわよ!」

 リコリスが意気込んで塔の扉を開けて、

「グルァアアアアアッ!!!」
「ぎゃああああああ!!!?」

 いきなり獣型の魔物が飛び出してきて、リコリスが涙目で悲鳴をあげた。

「あぶ……」
「危ないですね」

 慌てて前に出ようとしたけれど、それよりも先にソフィアが動いた。

 その手は剣の柄に伸びていて……
 チン、という音を立てて、剣を鞘に収める。

 すでに抜剣した後だった。
 魔物は縦に両断されて、そのまま絶命する。

「びびったー……マジでびびったー……いやいやいや、いきなり襲われるとか、考えないわよ! なんなのよ、これ! むかつく!!!」

 恐怖が怒りに変換されたらしく、リコリスは憂さ晴らしとばかりに、塔の壁を蹴りつけていた。

「ソフィアはすごいね。僕だったら間に合わなかったよ」
「いえ、フェイトも十分に動けていたと思いますよ。私の場合は、こうなることをある程度予測していたので、それで先に対処できたのです」
「もしかして、扉越しに魔物の気配を感じていたの?」

 たぶん、あの魔物は扉の近くで獲物を待ち構えていたのだろう。
 そして、中に入ってくる人を不意打ちで倒す。

「いいえ、そういうわけではありません」
「なら、どうして……?」
「リコリスが調子に乗る時は、まあ、こういうことがよくあるので」
「なるほど」
「そこ! なんで納得するのよ! おかしいでしょ!?」

 だって、リコリスだから。

 その一言でなんでも解決してしまいそうだった。

 とにかくも攻略を開始した。
 ソフィアと肩を並べるようにして、前に進む。
 リコリスは少し後ろを、ふわふわと浮いてついてきていた。

「グァ!?」
「ギャオオオン!?」
「ガッ……」

 長年放置されていたらしく、魔物が大繁殖していた。
 十メートルも進まないうちに、あちらこちらから襲ってくるのだけど、その全てを撃退する。

 ソフィアが八割、僕が二割くらいだろうか?

 僕の方が圧倒的に少ない……と、落ち込むことはない。
 以前なら一割も倒すことはできなかっただろう。
 それが、今では二割に届くことができた。

 うん。
 少しずつかもしれないけど、僕もきちんと成長している。
 そのことを実感することができてうれしい。

「それにしても……」

 ソフィアはダンスを踊るようにしつつ、魔物の相手をする。
 一撃も食らうことなく、逆に致命傷だけを叩き込んでいく。

 その顔は、ちょっとうんざりとした様子だ。

「数が多すぎませんか?」
「そうだよね……ちょっとおかしいかも」

 魔物も動物と同じように繁殖する。
 だから、放置すれば数が増えるのはわかるけど……

 でも、エサをどうしていたのか? という疑問が残る。

 魔物も食べないと生きていけない。
 これだけの数を養うエサなんて、どこから手に入れたのだろう?
 村が襲われたという話は聞いてないし……うーん?

 不思議に思いつつ、とにかく魔物を倒して、掃討した。
 けっこう時間がかかってしまったけど、一階の魔物はだいたい倒しただろう。

「これで終わりかな?」
「少し待ってください」

 ソフィアが目を閉じて集中した。
 ややあって、明るい表情を見せる。

「ほぼほぼ邪悪な気配は消えましたね。多少は残っているかもしれませんが、ほぼ、この階の掃討は完了したと考えていいでしょう」
「よかった。それじゃあ、まずは一階から探索を始めようか」
「ソッコーでミスリルが見つかってくれるとうれしいんだけど。かわいいかよわいリコリスちゃん的に、ダンジョンの中で寝泊まりなんてイヤだもの」
「いいから行きますよ」
「ふぎゃ!?」

 ソフィアに鷲掴みにされて、リコリスが連れて行かれる。

 最近、リコリスの扱いがさらに雑になってきたような……?
 でも、リコリスだから仕方ないよね。

 そんなことを思いつつ探索を続けて……
 僕は、それを見つけた。