僕と父さん。
 リコリスとアイシャ。
 ソフィアとミント。

 二階にあるリビングで六人で賑やかに話をしていると、表の扉が開く音が聞こえてきた。
 それから、トントントンと軽快に階段を上がる音。

「ただいま……あら?」

 姿を見せたのは母さんだった。
 背中にルーテシア。
 そして、両手に買い物袋。

 たぶん、買い物に行っていたんだろうけど……

「母さん、持つよ」
「あらあら、大丈夫よ。私、まだまだ若いもの」
「それは、まあ、否定できないんだけど……」

 ともすれば、僕よりも年下に見える母さんだ。
 父さんと一緒にいると、たまに、父さんが不審者に間違われてしまうほどだ。

 それでも母親は母親。

「体力は僕の方があるんだから。子連れで買い物なんてしなくても、一声かけてくれれば、荷物持ちくらいはできるんだから、無理はしないでよ」
「ふふ、心配してくれてありがとう。でも、これくらい無理じゃないわよ? フェイトちゃんが生まれた頃は、それこそ、毎日おんぶしながら家事とお父さんのお仕事のお手伝いを……」
「そういう話はいいから、ほら」

 やや強引に荷物を取り、キッチンへ持っていく。
 それぞれの場所に荷物を置いて、それからリビングへ戻る。

「よしよし、いい子ですねー」
「はーい、じっとしててねー」

 ソフィアとミントが、ルーテシアと遊んでいた。

 ルーテシアはまだ歩けないらしく、はいはいをして床の上を移動している。
 ソフィアとミントは、そんなルーテシアを見てだらしのない笑顔を浮かべていた。

 いや、うん。
 かわいいとは思うけど……
 でも、孫をかわいがるおばあちゃんのようになっているよ?

 ……とは言わない方がいいのだろう。
 そう思いつつも、僕は黙っておいた。

「フェイトちゃんは、どうしたの? 確か、ダンジョンの攻略をするのよねー」
「そうだけど、父さんが、今日は家でゆっくりしていけ、って」
「あらー、それは賛成ね。お母さん、フェイトちゃんと色々お話をしたかったから」
「それは……うん、僕も」

 ちょっとした照れくささというか、恥ずかしさはあるのだけど……
 久しぶりに両親と再会することができた。
 話したいことはたくさんだ。

「……」

 ふと、アイシャの様子がおかしいことに気がついた。
 ルーテシアと遊ぶソフィアとミントを見て、むすっとした顔をしている。

 もしかして……

「アイシャ」
「?」
「こっちにおいで。母さんと一緒に、おしゃべりをしよう?」
「うん!」

 ぱぁっと顔を明るくして、アイシャはタタタと駆け寄ってきた。
 そして、椅子ではなくて僕の膝の上に座る。
 さらに顔をすりすりと寄せて甘えてきた。

 こんな行動をとるということは、たぶん、ルーテシアに嫉妬していたのだろう。
 ソフィアがルーテシアばかりに構うからだ。

 でも、それはそれで仕方のないことだし……
 こういう嫉妬もよくあることと聞いている。
 だから、僕がうまいことフォローしないと。

 母さんもそれを察したらしく、アイシャに笑顔で話しかける。

「ねえ、アイシャちゃん。アイシャちゃんは、なにか好きな食べ物はある?」
「好きな……食べ物?」
「私、料理が得意なのよ。今日のごはんは、アイシャちゃんの好きなものを作ってあげる」
「ホント!?」
「うん、本当」
「わぁ」

 アイシャの目がキラキラと輝いた。

「あのー……あたしの好きな料理を作ってもらうことは……?」

 ちゃっかりとリコリスも割り込んでいた。

「ふふ、いいわ。リコリスちゃんの好きな料理も作ってあげる」
「やっふぅー!」
「やほー!」

 リコリス、うれしいのはわかるけど、変な喜び方をしないように。
 ほら、アイシャが真似をした。

「アイシャちゃんはなにが好き?」
「えっと、えっと……お肉!」
「お肉ね、ふふ、了解。じゃあ、今日はハンバーグにしましょうか」
「はんばーぐ?」
「あら、ハンバーグを知らないの? ハンバーグっていうのは……」

 楽しく、穏やかな時間が過ぎていった。